2020年07月07日 12時00分

コロナ禍、住宅業界に訪れる苦境と好機 変容する消費意識へのアプローチ手法が今後のカギか

新型コロナウイルスの感染拡大は、住宅業界にとってピンチでありチャンスでもある―― 今後への展開について語る、スウェーデンハウス・代表取締役社長の村井秀壽氏 (C)oricon ME inc. [拡大する]

新型コロナウイルスの感染拡大は、住宅業界にとってピンチでありチャンスでもある―― 今後への展開について語る、スウェーデンハウス・代表取締役社長の村井秀壽氏 (C)oricon ME inc.

 新型コロナウイルスの感染拡大が経済秩序を大きく揺るがすなか、住宅市場もまた打撃を受けている。住宅市場調査を行うTSON(ティーソン)によると、全国的に緊急事態宣言が発令された4月の住宅着工総数は、三大都市のうち東京、大阪で前年同月比・前月比ともに減少。人口減少や少子高齢化などにより、新規住宅着工数が減少傾向にあるなかで、今回のコロナショックにより、先行きに不透明感が増している。だが、その一方で、リモートワークなど“新たな生活様式”の実践により、自宅で趣味を楽しんだり、家族と一緒に過ごす時間が長くなったりしたことから、住環境に対して以前とは異なる価値観を持つ人も出てきているようだ。35年以上にわたり北欧由来の住宅を提供する輸入住宅メーカー・スウェーデンハウスの代表取締役社長・村井秀壽氏は言う。

◆コロナ禍、20〜30代の子育て世代が戸建て住宅への関心を高める

「弊社のデータでは、コロナ禍を受け、特に子どもが生まれたばかりの20〜30代の世代で、戸建ての家を持ちたいというお客さまが増えています。外出自粛や在宅勤務を経験した今、家で過ごす時間や住宅への憧れ・こだわりを強める人は少なからず増加しており、住み心地の良い戸建て住宅の存在が見直されつつあるタイミングなのではないかと感じています」(村井氏)

 総務省が発表した4月の家計調査によると、2人以上の世帯における実質消費支出は、前年同月比で11.1%と大幅に減少。未だ世界的に新型コロナウイルス感染症の終息が見込めず、給料やボーナスの減額を余儀なくされる企業も見られていることから、消費者の買い控えは当面続くかもしれない。しかし、未知なるウイルスの恐怖を経験し、新しい生活様式が求められるなかで変化した消費者の意識は、住宅業界にとって好機も含んでいるということだ。

 現状、コロナ禍による同社の業績への影響は軽微だが、住宅展示場への来場者数が3月は前年比30%減、4月においては70〜90%減とコロナ拡大に伴うインパクトは大きい。強い逆風が吹くなか、消費者の潜在的欲求に応えていくべく、同社では積極的なアプローチを始めている。

◆若い世代に向けたアピールは、Web戦略の多様化が要

 その1つが、若い世代に向けての新たな取り組み。同社の大きな特性と言えば、世代を超えて100年以上住み継げることが当たり前のスウェーデンの住宅思想を基本としている点。戦後の日本の木造住宅のように、25〜30年と短命ではなく、住めば住むほど味が出るとともに、傷みや不具合が生じても部分的に修復することができる。もちろん、20年、30年後など、ライフステージの変化によっての増築も可能だ。これまでは、自由設計による注文住宅をメインにしてきたが、今後は若い世代の手に届きやすいよう、規格住宅の充実にもより一層気を配りながら、「資産としての家づくりができる、そういった部分も積極的にアピールしていきたい」と、村井氏は意気込む。

 若い世代により広く伝えていくための手法として、注力しているというのが「Webの活用」だ。「正直なところ、市場における弊社の知名度はまだまだ低いと思っています。そこで、特に若い世代に知っていただけるよう、ホームページを刷新したところ、閲覧者数が2.5倍になり、資料請求も増加しました。ただ、そこから成約率を上げるためにはどうするかが重要です。オンライン相談会やモデルハウスの3Dウォークスルー動画配信に加え、現在は、AIキャラクターが接客するバーチャル展示場の開発も進めるなど、afterコロナの時代におけるWeb戦略の多様化にも力を注いでいきます」(村井氏)。宣伝・PRにおいては、「わかりやすさ」と「スピード感」が重要だと捉え、取り組みを行っているという。

 スピードという面では、コロナによって変化が加速する生活様式へのアプローチも重要だ。業界ではここ最近、在宅勤務を最適化する“テレワーク型住宅プラン”を提案する動きが各所で見られるようになったが、同社でも変容する働き方、私生活のニーズに応える提案に前向きな姿勢を見せている。

「弊社では、かねてより『ファミリールーム』というスペースをご提案しています。来客をもてなすリビングとは異なる、家族だけの共有スペースです。ここでパソコンを使ったり、読書やお子さんの勉強など多目的にお使い頂けます。高い気密・断熱性能で家中どこでも快適なスウェーデンハウスは、遮音性能も高く、テレワークやオンライン学習などに集中できる室内環境が整っていますので、このファミリールームは、新たな生活様式での仕事や私生活のニーズに応えられるものだと思います。これらも強みの1つに、afterコロナの住まいにおいて新たな提案をしていけるのではないかと考えています」(村井氏)

◆高齢化社会に備えた“街づくり”も、今後の住宅業界の課題と可能性に

 さらに、新たな時代を見据えてもう1つ同社が力を注いでいるのが、要介護者にも対応した高齢者向けサービス住宅やクリニック併用住宅など、高齢者や医療に配慮した住宅事業だ。今年11月には、第1号となる介護付き高齢者住宅が富山県に誕生する。

「1984年の設立当初から、来たる高齢化社会に備えて、弊社は住宅と医療を結び付けた街づくりを考えてきました。これまで、一戸建ての注文住宅を主に手がけてきましたが、福祉先進国のスウェーデンの思想と優れた住宅性能を備えた弊社の機能は、高齢者施設やホスピスにも十分発揮できると自負しています。現在、各自治体がスマートシティの実現に取り組んでいますが、弊社も街づくりにおいて、高齢者や教育などとリンクしていくことを課題に、今後、取り組んでいけたらと考えています」(村井氏)

 内閣府が今年5月末〜6月初旬にかけて全国1万人に行った意識調査によると、テレワーク経験者の3人に2人は「仕事より生活を重視したい」と回答。さらに、東京23区に居住する20代の35.4%が「地方移住に関心が高くなった」と答えた。冒頭、コロナ禍によって、家を持ちたいという20〜30代の世代が増えていると村井氏は語っていたが、内閣府の調査結果はそれに加え、人々の関心が周辺の環境にもおよんでいることを表していると言えるだろう。消費型から持続型へ。afterコロナは、住まいにおいても、人や社会・環境に配慮したサスティナビリティが求められる時代になるのかもしれない。

(文・河上いつ子)

●むらい・ひでとし
1954年11月17日生まれ。1979年4月にスウェーデンハウスの同社親会社となる、総合包装材メーカー・トーモクに入社。1998年4月には清水工場長、2000年6月には執行役員 清水工場長に就任。その後、取締役 大阪工場長(2010年)などを経て、2018年6月に取締役 神戸工場長 関西営業部管掌に。2019年11月に前スウェーデンハウス社長の岡田正人氏が逝去したのに伴い、2020年1月1日付けでスウェーデンハウス代表取締役社長に就任した。スウェーデンハウスは、1984年創設。北欧・スウェーデンの住宅思想を基本とした住居は、「環境大臣表彰」(2004年)、「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エレクトリック2007大賞」(2008年)、「グッドデザイン賞」(2014年)を受賞。2015年からは、オリコン顧客満足度(R)調査 ハウスメーカー 注文住宅ランキングにおいて、同ランキング発表開始以来、6年連続で満足度総合1位を獲得している。

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