人身事故の罰金と違反点数の関係|免停の基準や処分なしの場合を解説

人身事故の罰金と違反点数の関係|免停の基準や処分なしの場合を解説

人身事故を起こすと、罰金や刑事処分、免許停止・取消しといった重い責任を負う可能性があります。しかし、罰金が科されるかどうかは事故の内容や捜査の結果によって異なり、場合によっては罰金なしになるケースもあります。

この記事では、人身事故における罰金の金額や処分内容、違反点数との関係、手続きの流れまでわかりやすく解説します。
阿部由羅

監修者阿部由羅

ゆら総合法律事務所 代表弁護士
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで幅広く扱い、交通事故、離婚、相続、債務整理などを得意とする。埼玉弁護士会所属(登録番号54491)。

mokuji目次

  1. 人身事故の加害者が負う3つの責任の概要
  2. 人身事故の刑事処分|拘禁刑または罰金
    1. 被害者の傷害の程度と罰金額刑事処分の関係性
    2. 加害者の運転行為の悪質性と刑事処分の関係性
  3. 人身事故の行政処分|違反点数と免許停止・免許取消し
    1. 人身事故の違反点数|基礎点数と付加点数
    2. 免許停止(免停)になる違反点数の基準
    3. 免許取消しになる違反点数の基準
  4. 人身事故で罰金なしになる場合の条件
    1. 不起訴処分なら罰金が科されない理由
    2. 罰金なしの可能性がある具体的な状況
  5. 人身事故発生から罰金が科されるまでの流れ
  6. 罰金の支払い方法と払えない場合のリスク
  7. 人身事故の罰金に関するよくある質問
    1. 人身事故の罰金通知はいつ届く?
    2. 人身事故で罰金刑になると自動車保険にも影響する?
    3. 軽い人身事故でも罰金は科される?
  8. 万が一の人身事故に備え、自動車保険でリスクを軽減

人身事故の加害者が負う3つの責任の概要

人身事故の加害者が負う3つの責任の概要

人身事故を起こした場合、加害者には「刑事責任」「行政上の責任」「民事上の責任」という3つの異なる責任が発生します。これらの責任はそれぞれ目的や処分・請求の主体が異なり、独立して別々に発生するものです。

刑事責任は社会秩序の維持を目的として国が科すもので、拘禁刑や罰金といった刑罰が該当します。行政上の責任は道路交通の安全確保を目的として公安委員会の処分により生じるもので、違反点数の加算や免許停止、免許取消しがおこなわれます。

民事上の責任は被害者に対して発生するもので、被害者が受けた損害の回復を目的としています。具体的には、治療費や慰謝料などの損害賠償が含まれます。
責任の種類 目的 処分や請求をおこなう主体 具体的な内容
刑事責任 社会秩序の維持 拘禁刑、罰金など
行政上の責任 道路交通の安全確保 公安委員会 違反点数の加算、免許停止、免許取消し
民事上の責任 被害者の損害回復 被害者 損害賠償(治療費、慰謝料など)

人身事故の刑事処分|拘禁刑または罰金

人身事故の刑事処分|拘禁刑または罰金

人身事故を起こした場合、加害者は主に「過失運転致死傷罪」に問われ、拘禁刑または罰金を科される可能性があります。過失運転致死傷罪の法定刑は「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」です(自動車運転処罰法第5条)。
参考:e-GOV法令検索|自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 過失運転致死傷

刑事罰を科すかどうかやその重さは、被害者の怪我の程度や、加害者の運転行為の悪質性などによって総合的に判断されます。

軽微な事故であれば罰金も科されず不起訴となることが多いですが、加害者の過失が重大なケースでは罰金、故意に近い悪質なケースでは拘禁刑を科される可能性が高くなります。

ここからは、人身事故の加害者に対する刑事処分の有無や内容を左右する2つの重要な要素について見ていきましょう。

被害者の傷害の程度と罰金額刑事処分の関係性

人身事故に関する刑事処分の有無や内容を判断する上で、被害者の傷害の程度は重要な要素の一つです。被害者が重症を負った場合、重い後遺障害が残った場合、死亡した場合などには、重い刑事処分が科される傾向にあります。

これらのケースでは、起訴されて高額の罰金を科されることがあるほか、悪質なケースでは拘禁刑を科される可能性も否定できません。

これに対して、被害者のけがが軽い場合は、刑事処分を科される可能性は低いと考えられます。

加害者の運転行為の悪質性と刑事処分の関係性

人身事故に関する刑事処分の有無や内容を判断する際には、加害者の運転行為の悪質性も考慮されます。

たとえば、信号無視など運転者として当然払うべき注意を怠った場合や、大幅なスピード違反などきわめて危険な運転をした場合には、重い刑事処分が科される傾向にあります。

これに対して、被害者が急な飛び出しをおこなった場合や、交差点で被害者側が信号を無視していた場合など、加害者だけが悪いとは言い切れない状況で事故が発生したときは、刑事処分が科される可能性は低くなります。

人身事故の行政処分|違反点数と免許停止・免許取消し

人身事故の行政処分|違反点数と免許停止・免許取消し

人身事故を起こした人には、運転免許の違反点数が加算されます。累積点数が一定以上になると、免許停止(免停)や免許取消しの処分を受けます。

ここからは、人身事故の違反点数や、累積点数に応じた免許停止と免許取消しの基準について見ていきましょう。

人身事故の違反点数|基礎点数と付加点数

人身事故の違反点数は、「基礎点数」と「付加点数」の合計で計算されます。「基礎点数」は、違反行為の内容に応じて決まります。主な違反行為の基礎点数は以下のとおりです。

違反行為の種別

基礎点数

酒酔い運転

35点

酒気帯び運転

0.25mg/1L以上:25点
0.25mg/1L未満:13点

無免許運転

25点

速度超過

50km/h以上:12点
30km/h(高速40km/h)以上50km/h未満:6点
25km/h以上30km/h(高速40km/h)未満:3点
20km/h以上25km/h未満:2点
20km/h未満:1点

信号無視

2点

追越し違反

2点

優先道路通行車妨害等

2点

安全運転義務違反

2点

携帯電話使用等(交通の危険)

6点

「付加点数」は、被害者のけがなど事故の結果に応じて決まります。具体的には以下のとおりです。

交通事故の種別
(被害者のけがなどの程度)

専ら加害者の不注意によって事故が発生した場合の付加点数

それ以外の場合の付加点数

死亡

20点

13点

治療期間3ヶ月以上、または後遺障害あり

13点

9点

治療期間30日以上3ヶ月未満

9点

6点

治療期間15日以上30日未満

6点

4点

治療期間15日未満、または建造物損壊

3点

2点

たとえば、専ら加害者の不注意によって交通事故を起こし、被害者に全治2ヶ月のけがを負わせたとします。

この場合、安全運転義務違反の基礎点数2点と付加点数9点の、合計11点の違反点数が加算されます。スピード違反なども重なっていれば、さらに違反点数が増えます。

免許停止(免停)になる違反点数の基準

過去3年間の違反点数の累積が一定基準に達すると、免許停止(免停)処分となります。免許停止になる点数と期間は、過去の行政処分歴(前歴)によって変動します。

過去3年間の免停等の回数

免許停止になる累積点数

免停期間

0回

6〜14点

6〜8点:30日間
9〜11点:60日間
12〜14点:90日間

1回

4〜9点

4〜5点:60日間
6〜7点:90日間
8〜9点:120日間

2回

2〜4点

2点:90日間
3点:120日間
4点:150日間

参考:警視庁|行政処分基準点数
前歴がない場合でも、累積6点で免停処分の対象となります。一方、前歴が1回でもある場合は、わずか4点で免停となるため注意が必要です。

なお、免停講習を受けることで、停止期間を短縮できる制度があります。講習後の試験の成績や受講態度によっては、免停期間を短縮できる可能性があることを覚えておきましょう

免許取消しになる違反点数の基準

累積点数がさらに高くなると、免許の効力が失われる「免許取消し」処分となります。免許取消しになると、運転免許を再取得できない「欠格期間」が設けられ、この期間は運転免許試験を受けることすらできません。

前歴がない場合の免許取消しになる点数と欠格期間の関係は以下のとおりです。

累積点数

欠格期間

15〜24点

1年

25〜34点

2年

35〜44点

3年

参考:警視庁|行政処分基準点数

前歴がない場合でも、累積15点で免許取消しとなり、最低1年間は免許を再取得できなくなります。点数が高くなるほど欠格期間も長くなります。

特に、被害者が死亡した場合や重傷を負った場合、酒気帯び運転などの悪質な運転行為をした場合などには、1回の事故で免許取消しになることもあるので要注意です。

人身事故で罰金なしになる場合の条件

人身事故で罰金なしになる場合の条件

人身事故を起こした場合でも、必ずしも罰金が科されるわけではありません。

検察官の判断で「不起訴処分」となり、罰金が科されないこともあります。不起訴処分とは、検察官が事故の調査や加害者の取り調べなどをおこなった結果、刑事処分を求めないと決定することです。

不起訴処分となるかどうかを判断する際には、事故の状況や加害者の対応、被害者との示談の有無などがさまざまな要素が総合的に考慮されます。

ここからは、不起訴処分なら罰金が科されない理由と、罰金を回避できる可能性がある具体的な状況について見ていきましょう。

不起訴処分なら罰金が科されない理由

検察官が「起訴しない」と判断した場合(不起訴処分)、罰金を含む一切の刑事罰が科されません。刑事裁判など、刑事罰を科すために必要な手続きが実施されないためです。

罪を犯したことが確実であっても、「処罰の必要性が低い」「社会の中で更生させた方がいい」などと検察官が判断して、不起訴処分となることがあります

日本の刑事裁判では、起訴されると有罪率が9割以上と極めて高いため、不起訴処分を目指すことが重要になります。不起訴になれば前科もつかず、今後の生活への影響を最小限に抑えられます。

罰金なしの可能性がある具体的な状況

不起訴処分となる可能性が高いまる具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
・被害者側にも大きな過失がある場合
・被害者の怪我が軽い場合
・被害者との示談が成立している場合
・被害者が加害者の処罰を望んでいない場合
・加害者に前科や前歴がない場合
これらの要素が複数重なることで、不起訴の可能性は高まります。中でも被害者との示談成立は、処分の軽減に大きく影響する要素です。

誠実に謝罪し、適切な賠償をおこなうことで、被害者の処罰感情を和らげることができれば、不起訴処分の可能性が高まるでしょう。

人身事故発生から罰金が科されるまでの流れ

人身事故発生から罰金が科されるまでの流れ

人身事故を起こしてから、実際に罰金が科されるまでには、刑事手続きがおこなわれます。

まず警察による捜査がおこなわれ、事故の状況や被害者のけがの状態などが調査されます。その後、捜査資料が検察官へ送られ、検察官が起訴するか不起訴にするかを判断します。

起訴には「正式起訴」と「略式起訴」の2種類があります。

正式起訴の場合は、裁判所の公開法廷で審理されます。加害者は、指定された期日に裁判所へ出頭して審理を受けなければなりません。

略式起訴の場合は、裁判所の法廷での審理は実施されず、簡略化された手続きで審理がおこなわれます。原則として、裁判所への出頭は必要ありません。審理が完了した後、裁判所から罰金額が通知されます。

正式起訴と略式起訴のどちらにするかは検察官が判断しますが、略式起訴の場合は加害者が異議を述べ、正式起訴を求めることもできます。

罰金が科されるまでの期間は事案によって異なりますが、比較的単純な事案なら事故発生から1〜2ヶ月程度かかるのが一般的です。複雑な事案の場合は、さらに時間がかかることもあります。

くわしくは「人身事故の罰金に関するよくある質問」の「人身事故の罰金通知はいつ届く?」にて解説します。

罰金の支払い方法と払えない場合のリスク

罰金の支払い方法と払えない場合のリスク

罰金の通知(納付書)が届いた後は、指定された期日までに一括で罰金を納付する必要があります。罰金の納付は、検察庁の窓口か、または検察庁が指定した金融機関にておこないます。
参考:検察庁|裁判の執行等について

罰金の分割払いや、支払期限の延長は認められません。経済的な事情で罰金が払えない場合は、検察庁の徴収事務担当者に相談しましょう。

罰金を支払わないと最終的に労役場留置となる可能性があります。労役場留置とは、罰金の代わりに一定期間刑務所内で労働をおこなわせる処分です。

日常生活や仕事に大きな影響をが及ぶため、罰金の通知を受けたら必ず対応するようにしましょう。

人身事故の罰金に関するよくある質問

人身事故の罰金に関するよくある質問

ここまで人身事故の罰金や違反点数について解説してきましたが、実際に事故を起こした方や不安を抱えている方から寄せられる疑問は多岐にわたります。

ここからは、人身事故の罰金に関してよくある質問に回答していきます。罰金通知が届くタイミングや自動車保険への影響、軽微な事故における処分の有無など、多くの方が気になるポイントについて見ていきましょう。

人身事故の罰金通知はいつ届く?

罰金の通知が届くまでの期間は、事故発生後数週間から数ヶ月と事案によって幅があります。事故の複雑さや調査の状況によって異なり、原因や責任の所在が明確でない場合は、通知が届くまでに時間がかかることもあります。

多くの場合、略式手続によって罰金額が決定され、後日郵送で通知が届くという流れです。略式手続では裁判所に出頭する必要がなく、書面による手続きで罰金額が決められます。

通知書には罰金額とともに支払い期限が記載されており、その期限までに納付する必要があります。通知が届いたら内容をよく確認し、速やかに対応するようにしましょう。

人身事故で罰金刑になると自動車保険にも影響する?

罰金刑が科されたとしても、それ自体を理由に保険料がを上がるわけではありません

ただし、保険会社が被害者に賠償金を払った場合は等級が下がり、翌年度以降の保険料が高くなります。罰金が科されなかった場合も同様です。

また、ゴールド免許を持っている人が人身事故を起こすと、次の運転免許の更新時にゴールド免許ではなくなります。「ゴールド免許割引」などが適用されていた場合は、それがなくなって結果的に保険料が上がることがあります。

軽い人身事故でも罰金は科される?

被害者がけがをしていれば、軽い人身事故でも罰金が科される可能性はあります。しかし実際には、被害者のけがが軽ければ罰金は科されないことが多いです。特に被害者との示談が成立していれば、罰金が科される可能性はさらに低くなります。

被害者と向き合って誠実に対応し、適切な形で示談交渉をおこなうことで、罰金を回避できる可能性があることを覚えておきましょう。

万が一の人身事故に備え、自動車保険でリスクを軽減

人身事故を起こすと、罰金や拘禁刑といった刑事処分、免許停止や免許取消しといった行政処分を受ける可能性があります。

さらに、これらの処分とは別に、被害者への治療費や慰謝料など高額な損害賠償責任が発生します。自賠責保険だけでは補償が不十分なケースが多く、任意保険への加入が重要となります。

万が一の事故に備えて、自分に合った自動車保険を選ぶことは、経済的なリスクを軽減するために不可欠です。オリコンの「自動車保険ランキング」では、実際の利用者の満足度評価に基づいて、保険料や補償内容、事故対応などを比較検討できます。

複数の保険会社を客観的に比較することで、自分に最適な保険を見つけることができるでしょう。適切な自動車保険に加入することで、万が一の人身事故による経済的な負担を軽減し、安心して運転することができます。
阿部由羅

監修者阿部由羅

ゆら総合法律事務所 代表弁護士
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。交通事故案件のほか、離婚、相続、債務整理案件やベンチャー企業のサポート、不動産、金融法務などを得意とする。
埼玉弁護士会所属。登録番号54491。

PR
オリコン日本顧客満足度ランキングの調査方法について
PR

\ 14,015人が選んだ /
自動車保険ランキングを見る