犬のクッシング症候群とは?原因や初期症状・治療法を解説
この病気は、ホルモンのバランスが崩れることでさまざまな症状を引き起こし、放置すると愛犬の生活の質を大きく損ねる可能性があります。特に初期症状は見逃されやすいため、原因や特徴を知ることが重要です。
この記事では、クッシング症候群の原因や初期症状、治療法についてわかりやすく解説します。また、治療費やペット保険の活用方法についても触れているので、大切な愛犬の健康管理にぜひお役立てください。

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢
日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。
目次
犬のクッシング症候群とは
通常、このホルモンは脳の視床下部から分泌されるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)と、下垂体から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)によって適切な量がコントロールされています。しかし、この調整機能が乱れることで、コルチゾールが過剰に分泌され続け、体にさまざまな悪影響を及ぼすようになります。
犬種については、プードル、ダックスフント、ボストンテリアなどで発症しやすいという報告がありますが、実際にはどの犬種でも発症する可能性があります。また、性別による発症の差はないとされています。
クッシング症候群は一度発症すると完治が難しく、生涯にわたる治療が必要となることが多い疾患です。
そのため、早期発見・早期治療が重要となります。定期的な健康診断を受けることで、早い段階で異常を見つけることができ、より効果的な治療につながります。
犬のクッシング症候群の原因
●下垂体腫瘍
●副腎腫瘍
●ステロイド薬の長期投与
以降では、それぞれの原因について解説します。
下垂体腫瘍
過剰なACTHは副腎を刺激し、結果としてコルチゾールの分泌も増加することで症状が引き起こされます。下垂体腫瘍の多くは良性の腺腫ですが、まれに悪性の腺癌の場合もあります。
副腎腫瘍
副腎腫瘍の特徴として、約半数が良性腫瘍、残りの半数が悪性腫瘍であることが知られています。悪性腫瘍の場合は他の臓器への転移リスクも考慮する必要があります。
ステロイド薬の長期投与
ステロイド薬はコルチゾールと同様の作用を持つため、高用量での長期投与により副腎の機能に影響を及ぼす可能性があるのです。
ただし、重要な治療薬であるステロイドを自己判断で中止することは危険です。副作用が心配な場合は、必ず獣医師に相談しましょう。
犬のクッシング症候群の症状
病気の進行段階に応じて現れる症状と、特に注意が必要な併発疾患について解説していきます。
初期症状
● 異常な食欲亢進
● お腹が膨れて大きくなる
● 筋肉の萎縮
● 皮膚が薄くなり、かゆみや炎症が発生
● 左右対称の脱毛
● 皮膚の色素沈着(黒ずみ)
また、食欲が異常に増加するにもかかわらず、お腹だけが膨れるような特徴的な体型の変化も見られます。
皮膚の症状も見逃せない重要なサインです。皮膚が薄くなることで傷つきやすくなり、治りにくい状態になります。時には石灰化という症状により、皮膚に固い結節やびらん(皮膚の欠損)が生じることもあります。
末期症状
● 脳への影響による神経症状
● 重度の運動機能低下
● 深刻な皮膚トラブル
● 免疫機能の著しい低下
特に下垂体性クッシング症候群の場合、腫瘍が大きくなると脳を圧迫し、くるくると回る旋回運動や意識障害などの神経症状が現れることがあります。
また、副腎性の場合は、副腎のすぐそばを流れる大静脈の障害や突然死のリスク、腸などの臓器障害、強い腹痛などが起こる可能性があります。
併発症状
● 膀胱炎
● 膵炎
● 高血圧症
● 血栓塞栓症
● 皮膚感染症
● 結石症などの下部尿路疾患
また糖尿病を併発した場合は、血糖値のコントロールが困難になり、治療がより複雑になります。さらに血栓症のリスクも高まるため、重症化すると命に関わる可能性もあります。
犬のクッシング症候群の検査方法
以下の検査を通じて、症状の原因特定と最適な治療方針の決定を行います。
検査方法 | 目的 |
ACTH刺激試験 | 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を投与し、副腎からのコルチゾール分泌量を測定することで、副腎機能を評価する。クッシング症候群の診断に最も重要な検査の一つ。 |
血液検査 | 赤血球数や白血球数、肝臓や腎臓の数値など、全身の健康状態を確認する。クッシング症候群による臓器への影響を評価する。 |
低用量デキサメタゾン抑制試験 | デキサメタゾンという合成副腎皮質ホルモンを注射し、コルチゾール値の変化を経時的に測定する。下垂体性か副腎性かの鑑別に役立つ。 |
超音波検査(エコー検査) | 副腎の大きさや形状を確認し、腫瘍の有無を調べる。また、他の臓器への影響も評価する。 |
CT/MRI検査 | 脳の下垂体腫瘍の有無や大きさを詳細に確認する。腫瘍の進行度合いを評価する際に重要となる。 |
特にACTH刺激試験は、診断だけでなく治療開始後の経過観察においても重要な役割を果たします。
犬のクッシング症候群の治療法
主な治療法として、以下の3つがあります。
●薬物療法
●放射線治療
●外科手術
それぞれの治療法には特徴や利点、注意点があります。以降で詳しく解説します。
薬物療法(内服療法)
副腎皮質ホルモンの分泌を抑える薬を服用することで、症状の改善を図ります。この治療法は、下垂体性および副腎性いずれのクッシング症候群にも適用可能です。
これは、投与する薬の量が多すぎると副腎皮質機能低下症を引き起こす可能性があるためです。適切な投薬量は犬の症状や副腎皮質ホルモン濃度によって個体差があるため、慎重な投与量の調整が重要です。
また、薬物療法は一時的な治療ではなく、多くの場合、生涯にわたって継続が必要となります。
放射線治療
しかし、放射線治療を実施できる施設は限られており、治療費も高額になります。
外科手術
まず、手術自体の難易度が高く、リスクを伴うため、受けられる病院が限られています。また、腫瘍の大きさや転移状況によっては、手術自体が実施できない場合もあります。
その場合、内科的治療や放射線治療への切り替えを検討する必要があります。
さらに、定期的な検査を行いながら、適切なホルモン量を調整していく必要があります。手術による完治を目指せる可能性がある一方で、術後の継続的な管理も重要な治療の一部となります。
犬のクッシング症候群の治療費
主な治療法の一般的な費用の目安をご紹介します。
治療の種類 | 治療費の目安 |
内科的治療 | 小型犬:月2〜3万円程度 |
外科的治療 | 15〜25万円程度(入院費別途) |
放射線治療 | 40〜60万円程度(4回分) |
初診時の検査費用は、血液検査やACTH刺激試験、超音波検査などを含めて、4〜5万円程度がかかります。さらに、治療開始後も定期的な経過観察のための検査が必要で、1回あたり5千円〜1万円程度の費用が発生します。
また、治療中に合併症を発症した場合は、その治療費用も別途必要となります。例えば、糖尿病を併発した場合、1回の治療につき1万円程度の追加費用が発生する可能性があります。
愛犬の病気に備えてペット保険に加入しよう
治療費の支払いに不安がある場合は、早めに獣医師に相談することが重要です。症状や犬の状態に応じて、より費用を抑えられる治療法を検討できる可能性もあります。
なお、高額な治療費に対してはいくつか対処方法があります。多くの動物病院では分割払いに対応しているほか、ペットローンを提携している病院もあります。ペットローンは一般的なカードローンより金利が低いことが多く、計画的な支払いが可能です。ただし、審査に1〜2週間程度かかることがあるため、余裕を持って申し込むことをお勧めします。
また、ペット保険への加入も、高額治療費に対する備えとして大きな役割を果たします。「ペット保険 オリコン顧客満足度ランキング」では、実際にペット保険を利用した4,448人へのアンケート調査を基に、保険料だけでなく、ペットの種類別や精算方法別など、さまざまな視点で各社のサービスを評価しています。あなたの愛犬に最適な保険を選ぶ際の参考にしてください。

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢
日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
・獣医がん学会
・日本エキゾチックペット学会
・鳥類臨床研究会(鳥類臨床研究会認定医)
・爬虫類・両生類の臨床と病理のための研究会
●まさの森・動物病院
※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。