シートベルト非着用で判決が不利に!? 大幅減額となった事故事例

 警視庁によると、シートベルト非着用者の致死率は着用者の「約15倍」。ドライバーはもちろん、助手席や後部席の同乗者もシートベルトの着用は義務化されています。つまり、「シートベルトをしてない」=「違反」ということです。もし事故が起きたとき、ベルトをしていないという違反で、本来受け取れる賠償金が減額されてしまうこともあります。今回は実際の判例を4つ紹介します。
【発生日】 2010年11月7日午前

【事故内容】
 石川県内を車で走行していたAが居眠り状態のなか、時速50キロで対向車線にはみ出して、Bの車と衝突。車は横転してBは死亡、同乗していたBの妻も負傷した。

【判決】
 Bの妻と長男、長女は、Aを相手取り、約2億1500万円を請求する訴えを起こした。判決では、「Aの過失によって事故が発生したことは明らかだが、Bがシートベルトを着用していなかったことが損害の発生やその拡大に影響を与えたというべき」として、20%の過失相殺などが相当とされ、Aには約9700万円の賠償が命じられた。

 シートベルトの着用は義務です。そのため、たとえ事故の被害者であっても、非着用で被害が拡大すれば過失と認められ、損害賠償額は減額されてしまいます。
※2013年12月16日東京地裁判決
【発生日】 2009年2月10日夜

【事故内容】
 愛知県春日井市の交差点で、普通乗用車と軽乗用車が出会い頭に衝突。そのはずみで軽乗用車は約15メートルはじき飛ばされ、花壇に衝突して横転した。シートベルトを着用していなかった軽乗用車のドライバーは車から放り出され、約10メートル離れた地面に墜落して死亡した。

【判決】
 軽乗用車のドライバーの遺族は、普通乗用車側に対し、約1億9300万円を請求する訴えを起こした。裁判では、「軽乗用車側がシートベルトを装着していて車外に放り出されなければ、重大な外傷は生じず、人的損害は相当程度限定的であったと推測される」として、最終的に15%の過失相殺を認定し、普通乗用車側には約1億3500万円の賠償を命じた。

 このケースでも、シートベルト非着用が人的損害の拡大につながったとして過失相殺が相当とされました。シートベルトをしていれば、Cさんが死亡することはなかった可能性があるとした判決に、改めてシートベルトの重要性を感じます。
※2014年3月27日名古屋高裁判決
【発生日】 2012年7月3日午前

【事故内容】
 大阪府大阪市内で、親子2人がタクシーの後部座席に乗車。タクシーは時速30キロ前後で走行していたが、突然急ブレーキをかけた。その反動で、親の首が前後に大きく揺れ、腕や体を運転席の後ろにぶつけた。また、子どもの方も助手席のヘッドレストに頭をぶつけた。

【判決】
 親子側は、タクシーの運転手とタクシー会社を相手取り、約280万円を求める訴えを起こした。判決では「運転手は、適切にブレーキ操作を行って乗客の安全を確保する注意義務があるが、これを怠って急ブレーキをかけた過失がある」と指摘。

 一方、親子側にも「シートベルトを着用していなかった」という過失があった。そのため、「もし着用していれば、ケガは軽くなった可能性があった」として、親子側に1割の過失相殺を適用、タクシー運転手らには約170万円の賠償が命じられた。

 このタクシーには、後部座席付近に“安全のためにシートベルトをおつけください”と書かれたステッカーが貼られていました。「慎重に運転する」「補償の充実している自動車保険に加入しておく」といった事故への備えも大切ですが、“車の乗り方”に関してもしっかり気を配るべきです。
※2014年7月25日大阪地裁判決
【発生日】 2005年5月4日未明

【事故内容】
 東京都大田区の首都高速道路トンネル内で、清掃作業の車列最後尾を時速約20キロで走行していた標識車に、トラックが時速約70〜80キロで追突。標識車の助手席に座っていたAが追突の衝撃でフロントガラスに頭部を打ち付け、脳挫傷等の傷害を負い、後遺障害が残った。

【判決】
 AとAの家族は、トラックの運転手と運送会社を相手取り、約2億3700万円を求める訴えを起こした。トラック運転手は、事故時に前車を追い越そうと車線を変更し、床に落ちた高速券を拾おうとわき見をしたため、判決では「前方注視義務を怠った過失は明らか」とされた。一方、Aは作業上の都合でシートベルトをしていなかったため、「5%の限度で過失相殺をするのが相当」と認定。トラック側には約1億970万円の支払いが命じられた。

 またしても、シートベルト非着用が人的損害の拡大につながったとして過失相殺が相当とされました。
※2013年3月27日東京地裁判決

 紹介した事例では、いずれもシートベルトを着用しなかった「落ち度」が被害を大きくしたと認定されたため、事故の被害者であっても過失相殺により損害賠償の額が減額されてしまいました。もし着用していたら命を失わずに済んだ、または後遺症も残らなかった可能性もあります。義務のため、お金のためではなく、やはり安全のためにシートベルトをしましょう。なお、自動車保険の中には、シートベルト装着者が死亡した場合などに追加で支払われる「座席ベルト装着者特別保険金」を用意していることもあります。補償を手厚くしたいと考えている人は、検討に加えるのもよいでしょう。

監修/
新橋IT法律事務所 弁護士・谷川徹三氏

制作協力/
株式会社マイト
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