生命保険料控除の計算方法とそのしくみをわかりやすく解説

生命保険料控除の計算方法とそのしくみをわかりやすく解説

「所得控除」のひとつである生命保険料控除。これは、対象となる保険契約等によって異なりますが、支払った保険料に対して一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。そのため所得税や住民税の負担軽減につながります

「税金が安くなるなら生命保険に入りたいけど、どこまでお得なのかわからない」「制度は知っているけど、会社員じゃないと手続きが面倒くさそうで利用していない」という人のために、生命保険料控除の計算方法や、そのしくみといった基本的なことまでわかりやすく解説していきます
ファイナンシャルプランナー/経済ジャーナリスト 酒井富士子

監修者 ファイナンシャルプランナー/経済ジャーナリスト 酒井富士子

金融メディア専門の編集プロダクション・株式会社回遊舎 代表取締役。日経ホーム出版社(現日経BP社)にて「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長を歴任。

生命保険料控除の概要

生命保険料控除の概要

まずは、そもそも生命保険料控除とは何か、そのしくみについて解説していきます。

生命保険料控除とは

生命保険料控除とは、払い込んだ生命保険料の金額に応じて、一定の金額が保険料負担者の所得から控除される制度のことです。これにより所得税・住民税の負担が軽くなることがメリットです。会社員の方であれば年末調整、自営業やフリーランスの方であれば確定申告をすることで控除を受けることができます

ただし、平成22年度税制改正により、現在は新制度と旧制度の2つが存在しているため、年末調整や確定申告の際は、自身の契約にはどちらの制度が適用となるか確認が必要です。平成24年1月1日以降に結んだ保険契約には、新制度が適用されますが、それ以前の契約には旧制度の控除条件が適用されます。これについては後の章で詳しく説明していきます。

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生命保険料控除のしくみ

続いて、生命保険料控除を適用すると、なぜ税金が安くなるのか、基本的なしくみを説明していきます。

生命保険料控除を利用すると、税金が安くなる理由は、税制上の優遇措置によるものです。国税庁ホームページによると、生命保険料控除は大正12年の衆議院議員の議員立法により創設されています。目的は、個人の生活を安定させることや貯蓄心の向上であり、当時は生命保険料控除を受けるために申告が必要であったことから、申告者数の増加も見込んで提案されました。

生命保険料控除は、支払った保険料に応じて、一定の金額がその年の保険料負担者の所得から差し引かれることで、所得税および住民税の対象となる所得が減少し、支払う税金が減るというしくみになっています。

国税庁 はじめての保険料控除(答え)

生命保険料控除改正のポイントと、適用される保険契約等の種類

生命保険料控除改正のポイントと、適用される保険契約等の種類

ここからは、前述の平成22年度税制改正での生命保険料控除に関する変更点と、生命保険料控除が適用される保険契約の種類について詳しく解説していきます。

生命保険料控除改正のポイント3つ

平成22年度税制改正により、平成24年1月1日以降の契約から適用されている生命保険料控除の新制度ですが、改正のポイントは次の3つです。

1. 介護医療保険料控除の新設
従来からの一般生命保険料控除と個人年金保険料控除に加えて、介護・医療の保障を対象にした「介護医療保険料控除」が新設されました。

2. 各保険料控除の適用限度額の変更
適用限度額が変更されたことで、生命保険料控除の限度額が所得税4万円・住民税2.8万円に変更されました。

3. 制度全体の限度額が10万円から「12万円」に
旧制度の一般生命保険料控除と個人年金保険料控除は限度額がそれぞれ5万円でしたが、新制度からそこに介護医療保険料控除が加わり、限度額はそれぞれ4万円になりました。そして、この3つの保険料控除の合計限度額が、最高12万円までに拡充されました。住民税の限度額は現行どおり7万円です。

平成22年度の税制改正における、生命保険料控除の大きな改正点は、所得税における控除額が最大5万円から4万円に減額されたことです。その一方で、新たに介護医療保険料が控除対象となったため、合計適用限度額は10万円から12万円に拡大しました。

この新しい制度が適用されるのは平成24年1月1日以降の契約となり、契約の更新にも適用されます。ただし平成23年12月31日以前の契約は旧制度の生命保険料控除が適用されます。

自身の具体的な控除額を知るためには「いつ契約したどんな種類の保険に加入しているか」を確認することが非常に重要です。

生命保険料控除が適用される保険契約等の種類

税制改正を経て現在、生命保険料控除の対象となる保険契約等の種類は以下のとおりです。

一般生命保険料
生存又は死亡に基因して一定額の保険金が支払われる保険契約です。民間の生命保険会社と結んだ生命保険契約、旧簡易生命保険や農業協同組合、漁業協同組合などと契約した生命共済や年金共済など、一般的な生命保険契約のことです。

個人年金保険料
以下の条件をすべて満たす個人年金保険が対象です。この条件を満たさない個人年金保険は、一般生命保険料控除の対象となります。

・保険料を払う本人か、その配偶者が年金を受け取ること
・保険料の払込期間が10年以上で、定期に支払う契約であること
・年金開始年齢が満60歳以上で、年金期間が10年以上または終身であること

介護医療保険料
平成22年度の税制改正で、新たに生命保険料控除の対象となったのが、介護保険や医療保険の保険料です。これは前述した一般生命保険料、個人生命保険料とは別枠となり、所得税においては上限4万円までを控除することができます

生命保険料控除の手続きと計算方法を解説

生命保険料控除の手続きと計算方法を解説

それではいよいよ、生命保険料控除の具体的な手続き方法と計算方法を説明していきます。生命保険料控除適用の手続きは、給与所得のある会社員か、自営業やフリーランスかによって異なりますいずれの場合も、保険会社から送付されてくる「生命保険料控除証明書」が必要です。「生命保険料控除証明書」は、各保険会社や保険料の払込方法等によって異なりますが多くは10月〜11月に発送されるようです。発送時期については、自身が契約している保険会社のホームページ等で確認してみてください。

会社員の場合

会社員の場合は、会社から配布される年末調整の記入用紙に必要事項を記入して提出すれば控除の適用が可能です。毎月の給料から天引きされている所得税のうち、払いすぎていた金額があれば、還付されます。

年末調整の書き方
用意するもの
・会社から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」
・保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」

「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入していきます。「生命保険料控除証明書」から転記する箇所もありますので、参照しながら進めていきます。
記入箇所は以下です。
・保険会社等の名称
・保険等の種類
・保険期間
・保険等の契約者の氏名
・保険金等の受取人
・新・旧の区分
・あなたが本年中に支払った保険料等の金額
・(a)のうち新保険料等の金額の合計額
・Aの金額を下の計算式T(新保険料等用)に当てはめて計算した金額
・(a)のうち旧保険料等の金額の合計額
・Bの金額を下の計算式U(旧保険料等用)に当てはめて計算した金額
・計@+A
・AとBのいずれか大きい金額
・介護医療保険料
・個人年金保険料
・生命保険料控除額計

自営業・フリーランスの場合

自営業やフリーランスの方は、自身で確定申告書の生命保険料控除の欄に記入し、税務署に提出して確定申告を行う必要がありますその際に保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」の添付もしくは提示を忘れないようにしてください

生命保険料控除の具体的な計算方法

具体的な計算方法ですが、総所得金額から「生命保険料控除の各保険料控除の合計適用限度額」を差し引いた額に、所得税や住民税の税率をかけた額が税金となります。ここでは、年末調整や確定申告の際に記入する「生命保険料控除額」の計算方法を説明します。尚、旧制度と新制度によって年間の支払い保険料の範囲や控除額が異なりますので、自身の契約が旧制度にあたるのか、新制度にあたるのかご確認の上計算してください
旧制度(平成23年12月31日以前に結んだ契約)の場合
【所得税の生命保険料控除額】

年間の支払保険料

生命保険料控除額

(年間の支払保険料が)25,000円以下

支払保険料等の全額

25,000円〜50,000円以下

支払保険料等×1/2+12,500円

50,000円〜100,000円以下

支払保険料等×1/4+25,000円

100,000円〜

一律50,000円

【住民税の生命保険料控除額】

年間の支払保険料

生命保険料控除額

15,000円以下

支払保険料等の全額

15,000円〜40,000円以下

支払保険料等×1/2+7,500円

40,000円〜70,000円以下

支払保険料等×1/4+17,500円

70,000円〜

一律35,000円

新制度(平成24年1月1日以降に結んだ契約)の場合
【所得税の生命保険料控除額】

年間の支払保険料

生命保険料控除額

20,000円以下

支払保険料等の全額

20,000円〜40,000円以下

支払保険料等×1/2+10,000円

40,000円〜80,000円以下

支払保険料等×1/4+20,000円

80,000円〜

一律40,000円

【住民税の生命保険料控除額】

年間の支払保険料

生命保険料控除額

12,000円以下

支払保険料等の全額

12,000円〜32,000円以下

支払保険料等×1/2+6,000円

32,000円〜56,000円以下

支払保険料等×1/4+14,000円

56,000円〜

一律28,000円

生命保険料控除を受けるときの注意点

生命保険料控除を受けるときの注意点

生命保険料控除を受けるにあたっては注意点がいくつかあります。申請を進める前にチェックしておきましょう

控除の対象にならない保険がある

生命保険料控除の対象にならない保険も中にはありますので、確認が必要になります。

国税庁のホームページによると、対象外となる保険は、例えば以下のようなものです。

・保険期間が5年未満契約の貯蓄保険や貯蓄共済
・国外で、外国生命保険会社等、外国損害保険会社等と締結したもの
・信用保険契約、傷害保険契約、財形保険など

国税庁 No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等

契約の更新や特約付加の場合に注意

平成24年1月1日以降に契約を更新した場合や、特約を中途付加した場合は、その契約の更新日、あるいは特約の中途付加をした日以後の保険料に新制度が適用されます。ただし、身体傷害のみに基因して保険金が払われる特約に関しては、生命保険料控除の対象外となります。

生命保険料控除を申請可能な人と、対象となる保険料に注意

控除を申請できるのは、「保険料を払っている人」になりますので注意が必要です。また、対象となる保険料は、その年の1月1日〜12月31日に払込が完了している金額となります。

配当のある保険の場合は申請時注意

有配当保険と呼ばれる、配当金がある保険を契約している場合、生命保険料控除を申請する際、総支払保険料から配当金を差し引いて申請することになりますので注意が必要です。

生命保険料控除に関するよくある質問

生命保険料控除に関するよくある質問

Q. 自分が保険料を支払っている、妻(あるいは夫)の生命保険料は控除の対象となりますか?

A.はい、対象となります。あなたが保険料を払っていることを証明できるものがあれば問題ありません。保険料を支払うのが保険契約者でなければならないわけではなく、配偶者その他の親族であればよいためです。(所得税法第76条第5項、第6項)ただし、将来的な保険金の受取の際には課税関係(贈与税になるのか、一時所得となるのか)に注意が必要になります。

Q. 「生命保険料控除証明書」を紛失した場合はどうすればよいですか?

A.保険会社により異なりますが、たいていは再発行してもらうことができます。詳しくはご加入の保険会社にお問い合わせください。

Q. 控除の申請を忘れた場合どうなりますか?

A.年末調整で申請を忘れてしまった場合には、確定申告の期間に個人で申請が可能です。もし確定申告の期間を過ぎてしまった場合でも、5年後の確定申告期間内であれば申請することが可能です。

まとめ

生命保険料控除のメリットは、「支払う税金が安くなること」に尽きます。所得税を納めていて、一般生命保険や個人年金保険、介護保険・医療保険のいずれかに加入している人なら誰でも控除を受けられますので、いわゆる「節税対策」として有効でしょう。貯蓄型の保険(万一に備えてお金を守りながら貯金もできる保険)に加入しているなら、保険そのものによる貯蓄性に加え、所得控除により利回りが良くなる可能性があります。

ただし、現在は新制度と旧制度が混在している状態です。平成24年1月1日以降に結んだ契約には新制度の条件が適用されますが、それ以前の契約は旧制度の条件が適用されますので、施行前と施行後に契約した保険に加入中の場合、所得控除額が変わってきてしまいます。まずは自分が加入している保険の種類と契約日を確認して、最大限の控除を受けられる申請を選びましょう。
ファイナンシャルプランナー/経済ジャーナリスト 酒井富士子

監修者 ファイナンシャルプランナー/経済ジャーナリスト 酒井富士子

金融メディア専門の編集プロダクション・株式会社回遊舎 代表取締役。
日経ホーム出版社(現日経BP社)にて「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長を歴任。
リクルートの「赤すぐ」副編集長を経て、2003年から現職。「お金のことを誰よりもわかりやすく発信」をモットーに、暮らしに役立つ最新情報を解説する。

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