引越し顧客満足度ランキング! アートが首位に返り咲いた理由
とはいえ、数ある引越し会社の中から、どの業者を選べばいいのか。「オリコン日本顧客満足度ランキング」の引越し会社に関する調査結果を見たところ、最近何かともてはやされる「コスパ」よりも、スタッフの対応を重視する人が多い実態が浮かび上がった。キーワードは人と人との“絆”のようだ。
調査は今年で10年目を数える。今回ランキングの対象となったのは、全国8地域のうち4地域以上で営業する31社。ただし、法人の事務所移転などのサービスは対象外とした。アンケートには、18歳以上の男女で、過去5年以内に引っ越し会社を利用し、業者選びに関わった1万6444人が回答した。
「営業スタッフの対応」や「作業内容」、「コストパフォーマンス」など7項目に関する質問を行い、それぞれの満足度を100点満点で評価してもらった。なお、多くの利用者が重視する項目で評価が高い場合は、点数に反映する仕組みになっている。
アートが首位に返り咲いた要因は「スタッフ力」
引越し会社の選定に関与した1万6444人の調査に基づく
アート引越センターを首位奪還へと押し上げた要因には、スタッフの対応が挙げられる。評価項目別のランキングで、アート引越センターは「営業スタッフの対応」「現場スタッフの対応」がともにトップだった。
利用者からは「頼んでいなかったのに手荷物も快く運ぶのを手伝ってくれた」「迅速かつ丁寧で、社員教育がいいのだろう」といった声が寄せられた。
アート引越センターではスタッフの経験や能力に応じて格付けする制度を取り入れており、「プロとしての意識を高めるとともに、高品質のサービスで顧客に満足してもらえるように努めている」という。こうした真摯な取り組みが実を結んだといえる。
2位のサカイ引越センターは「現場スタッフの対応」で2位に、3位のハトのマークの引越センターは「営業スタッフの対応」で3位に食い込んだ。ハトのマークを利用した40代の女性は「自転車の鍵がなくなった際、自転車店に自転車を持って行って新しい鍵を作ってきてくれた」と話しており、利用者はスタッフの技量はもちろん、人柄や対応力も見るようになってきているようだ。
一方、「コストパフォーマンス」(以下、コスパ)の項目を見ると、サカイ引越センターは5位、アート引越センターは6位。ハトのマークの引越センターこそ2位に入ったものの、総合的な満足度という観点からすると、コスパの存在感は薄まりつつあるのかもしれない。
引越し会社の選定に関与した1万6444人の調査に基づく。
西のアート引越センターと東のサカイ引越センターの2大構図に
アート引越センターを運営するアートコーポレーションは、大阪府大東市に本社を置く、今年で設立40年を迎える老舗だ。社長の寺田千代乃氏は、関西経済連合会の副会長を務める関西財界の重鎮。近畿圏でのアートの企業イメージは、圧倒的な浸透しているといえる。
一方で、北海道と東北の2地域では、サカイ引越センターがトップに立った。実はサカイ引越センターの本社は大阪府堺市。大阪発の2社が近畿の覇権をめぐって争っているだけでなく、「西のアート」「東のサカイ」と日本を分ける構図まで形作りつつある。
関西エリアは商業の中心として発展してきただけに、大阪の企業は人の心をつかむのが上手く、商才にたけている文化が脈々と受け継がれているのではないか。課題は、関東、東海、北陸エリアが他社の牙城であること。これをどう崩すか両社とも策を練っているに違いない。
引越し会社の選定に関与した1万6444人の調査に基づく。 地域別エリアで東北の第3位はランキング外の引越し会社
引越し業者を選ぶなら「顔」が見えるかどうかがポイント
一昔前は1回の訪問などの見積もりで、営業スタッフの言い値がそのまま引越し代金になることすらあった。しかし、見積もりサイトで多くの業者の概算料金を簡単に比べられるようになったために、利用者の「価格交渉力」は上がってきている。
ただ、見積もりサイトを利用すると、やりとりはメールになることもあり、そこには「複数の業者と接触できても、逆に各業者の顔が見えにくい」というデメリットも生じる。最初に見積もりを高く提示すると利用者の反応が悪くなりかねないことから、メールなどではとりあえず安く見積もるという不誠実な業者もいるというから、注意したい。
コストは重要な判断基準であるが、引越し業者と利用者の認識が乖離(かいり)していると、トラブルが起きるのは必至だ。これから求められるのは、利用者とコミュニケーションをしっかりとり、価格を含めて情報の非対称性を解消しようとする誠実な姿勢をとる業者だろう。
引越し業界の市場規模はここ数年、4000億円前後で推移している。所得の伸び悩みに伴う住み替え意欲の低下や少子化などの影響で伸び悩んでおり、業者が淘汰されるケースも出始めた。生き残るには、利用者の信頼をどれだけ勝ち取り、“絆”を深められるかがカギを握っている。
(四つ葉経済記者会 ジャーナリスト 外村緒判[そとむら・しょばん])