バリアフリー住宅とは?場所ごとの設計・間取りのポイントを解説
今回は、バリアフリー住宅を建てる際に意識すべき設計の考え方や、間取りのポイントについて解説します。
目次
バリアフリー住宅とは、高齢者や障害者を含むすべての人が暮らしやすい住宅のこと
一般的に「バリア」には、大きく下記の4つの意味があります。
物理的なバリア
店舗の入り口の段差やスロープのない階段、車椅子ユーザーが使えないトイレなど、物理的に生活が制限されるもの
制度的なバリア
障害や年齢を理由とした雇用の制限、資格取得の制限など、制度的に活動を阻むもの
文化情報面のバリア
障害によって文字が読めない、テレビの情報を聞き取れないなど、得られる情報に制限があること
意識上のバリア
高齢者や障害者への偏見や無関心など、心の中で一線を引いて接すること
具体的には、高齢者や障害者のケガにつながるおそれのある段差や、浴室の滑りやすさなどを解消することなどがあります。
最近では、いっしょに暮らす家族にも目を向け、「家族みんなが暮らしやすい住宅」をバリアフリー住宅とする考え方も広まりました。
また、「若いときは気にならなかった間取りが年齢とともに使いにくくなった」「子供が生まれ、デザインより安全性を重視したくなった」といったライフステージの変化に伴う住宅への意識の変化に備え、最初からバリアフリーを意識した住宅を建てるケースも増えています。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
近年の施設づくり、家づくりで推奨されているユニバーサルデザインは、障害や年齢、性別、人種など、あらゆるセグメントにかかわらず、すべての人が利用しやすい都市または生活環境をあらかじめデザインするという考え方です。
バリアフリーはユニバーサルデザインの一種であり、特に高齢者や障害者に配慮した工夫の仕方であるという点で違いがあります。
バリアフリー住宅で重視すべきポイント
ここでは、バリアフリー住宅で重視すべき3つのポイントについて解説します。
段差をなくす
例えば、門扉から玄関までの飛び石を施したアプローチ、玄関のたたきと室内との境目の上がり框(かまち)、部屋と部屋とのつなぎ目に小さな段差などがあると、高齢者や小さな子供がつまずき、転倒のリスクがあります。
また、車椅子やベビーカーでは、スムーズに移動することができません。
赤ちゃんが生まれたときや、病気やケガなどで思うように体が動かなくなった場合に備える意味でも、段差は極力なくしておきましょう。
あわせて、通路や間口はできるだけ広く取っておくこと、扉は車椅子でも出入りしやすい引き戸にすることが望ましいといえます。
転倒を防ぐ
特に高齢者の場合、年齢とともに骨がもろくなっているため、ちょっとした転倒が骨折につながりかねません。
中でも、室内での転倒で大腿骨を骨折する例は多く、脳卒中、認知症に次いで、寝たきりになる原因の上位に位置しています。
転倒のリスクを軽減するには、手すりの設置が有効です。
特に転倒しやすい廊下や浴室、トイレ、玄関などに手すりを設置するといいでしょう。
玄関のたたきには、高齢者や障害者がスムーズに座れる高さの椅子を設置し、靴の着脱の際の負担を軽減するのも手です。
温度差を減らす
特に冬場は、室内で温度差がある場合、高齢者が暖かい場所から寒い場所に移動したときに体に負荷がかかり、ヒートショックを引き起こすリスクが高まります。
ヒートショックとは、急激な温度変化により、血圧が急上昇して心臓や血管に大きな負担がかかることです。
ヒートショックは脳梗塞や心筋梗塞の原因のひとつでもあり、予防が必要です。
脱衣所や浴室、トイレなど、冷えやすい場所の窓に内窓を設置して気密性と断熱性を高めたり、暖房を設置したりして温度差の解消を図りましょう。
バリアフリー住宅を設計する際の注意点
では、実際にバリアフリー住宅を設計する際には、どのような点に気をつければいいのでしょうか。
ここでは、バリアフリー住宅を設計する際の注意点について解説します。
上下移動のない平屋にするか、1階だけで生活できる間取りにする
現代の戸建ては2階建て、3階建てが主流ですが、敷地面積が許すのであれば平屋を検討するのも一案です。
ただし、介護者と要介護者の物理的な距離が近すぎると、介護者の生活が介護一色になって負担が増すことも考えられます。
要介護者に何かあればすぐに駆け付けられる距離感は保ちつつ、プライバシーを保てるよう、生活空間を区切るのがおすすめです。
介護度にもよりますが、2階建ての場合は1階に要介護者、2階に介護者というように住み分けをしてもいいでしょう。
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廊下を減らし、直線的な動線を設ける
そのため、バリアフリー住宅を設計する際には、高齢者や障害者が自分の体と向き合い、できるだけ自分自身の力で目的の場所へ移動できるよう、可能な限り動線を単純化するといいでしょう。
例えば、リビングから寝室へ行く場合に、「ドアを開けて廊下に出て、またドアを開ける」といった複数の動作が発生すると、どこかで介助の手が必要になります。
これを、リビングから隣の部屋を抜けて寝室にたどり着けるように直線的な動線にすることで、要介護者が一人でスムーズに移動することが可能です。
過度にバリアフリーの設計を施さない
例えば、玄関アプローチの段差や出入口の幅など、リフォームに時間と費用がかかるものは、最初から設計に組み入れておいたほうがいいですが、不要な手すりや補助ベンチなどは、要介護者がいない状況では邪魔になることもあります。
また、あまりにも生活のすべてをサポートしすぎると、要介護者の自立性が著しく低下し、介護者の生活にも影響を及ぼしかねません。
リスクは極力減らしつつ、要介護者が「自分でする」「みずから動く」余地も残しておくことが大切です。
住宅内の各場所におけるバリアフリーの工夫
トイレ:寝室の近くに広めに作る
介護者が寝ている時間帯でも安全にトイレと寝室を行き来できるよう、トイレは寝室のそばにつくりましょう。
また、トイレの入り口は段差をなくして引き戸にし、開口部や内部のスペースを広めに取ることも重要です。
そうすることで、車椅子のままトイレに入り、便座まで楽に移動することができます。
浴室:高さと滑りにくさに配慮する
また、介護者が要介護者を支えて入れるように、出入口は引き戸にして開口部を広く取っておくことをおすすめします。
洗面所:座って使う用と、立って使う用を分けて設置する
ただし、健康な大人には低すぎて使いにくいと感じる可能性があります。家族みんながストレスなく使えるよう、座った状態で使える低めの洗面台と、立って使う人のための洗面台をそれぞれ設置しましょう。
リビング・ダイニング:高さ調節できるテーブルを選ぶ
特に食事の際には、テーブルの高さに配慮が必要です。
車椅子に座ったまま食事ができるように、高さ調整できるテーブルを選ぶことで、家族みんなが快適に食事できます。
また、現代の住宅では、リビングとダイニング、キッチンがつながったLDKの間取りが一般的ですが、各スペースの段差をなくしたり、床材を滑りにくくしたりすることで、LDKの動線をバリアフリーにすることが可能です。
玄関:スロープを設置し、ドアは引き戸にする
段差の多いアプローチや玄関を、車椅子や杖で乗り越えるのは困難です。
門扉から玄関までの地面はフラットにして、段差にはゆるやかなスロープをつけておくことで、高齢者や障害者だけでなく、妊婦や幼児でも安全に移動できます。
廊下・階段:廊下や階段の幅は広めに取る
体の状況にもよりますが、比較的自立度が高ければ手すりをつけることで自重を支えて移動できます。
万が一に備えて、廊下・階段共に、床は滑りにくい素材を選んでおくことが重要です。
キッチン:座ったまま調理できるキッチンを選ぶ
車椅子のままや座った状態で利用することを考え、できるだけスペースを広めに取り、全体的に低めの設計にしましょう。
年齢を重ね、立ったままで長時間作業するのが負担になった場合にも、低めのキッチンは重宝します。
バリアフリー住宅に使える補助金・助成金・減税制度
総務省統計局の2018年時点の住宅・土地統計調査によれば、高齢者が住む住宅で何らかのバリアフリー設備を導入している住宅の割合は42.4%となっており、その中では手すりの設置が多くを占めています。
政府は、高齢者の住まいに対し、2030年までに一定のバリアフリー化を図ることを目標に掲げており、そのための補助金や助成金などを用意しています。
ここでは、バリアフリー住宅に使える補助金・助成金・減税制度について見ていきましょう。
補助金・助成金制度
戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業
住宅の性能・設備に応じて、新築時や新築建売住宅を購入する際に補助金を利用することができます。
2024年度の補助額は、1戸あたり定額55万円です。
参照:ZEH Web(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)「ZEH補助金」
LCCM住宅整備推進事業
設計費と建設工事等における補助対象工事の掛かり増し費用の合計額の2分の1が補助対象費用となります。
2024年度における補助限度額は、1戸あたり140万円までです。
参照:一般社団法人 環境共生まちづくり協会「LCCM住宅整備推進事業」
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高齢者住宅改修費用助成制度
在宅介護を重視し、高齢者の自立を支援する観点から、段差の解消や手すりの設置などの住宅改修を、給付の対象としています。
介護保険制度の補助制度であるため、利用する高齢者が介護認定を受けていることが必要です。
支給限度基準額は20万円となっており、最大でその9割となる18万円の補助が受けられます。
減税制度
住宅ローン減税
毎年の住宅ローン残高(限度額2,000万円)の0.7%に相当する額を最大10年間、所得税から控除することが可能です(リフォーム後の居住開始年が2022〜2025年の場合)。
参照:国税庁「特定増改築等住宅借入金等特別控除」
所得税または固定資産税の減税
所得税は、一定のバリアフリー改修を行った場合、対象工事限度額200万円の範囲内で、最大20万円が控除されます。
一方、固定資産税は、2026年3月31日までに改修工事が完了していることで、翌年度分の固定資産税が3分の1減額されます。
参照:東京都主税局「高齢者等居住改修住宅等の減額」
バリアフリー住宅で、家族が快適に暮らせる住まいづくりを
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