引っ越し業者の「賢い選び方」が変わり始めた ハトが"御三家"の上に羽ばたいた理由

※記事は2016年3月12日に東洋経済オンライン(外部リンク)に掲載されたものです。
  • 【画像】引越し,段ボール

 今年も「新生活シーズン」が巡ってきた。進学や就職に伴って住まいを移す人も多いだろう。その際、いちばんの大仕事である「引っ越し」をどの業者に任せるかは、思案のしどころだ。

 丁寧な作業や充実したサービスの評判から業者を選び、新居でのスタートを気持ちよく切るか。それとも、何かと物入りな新しい暮らしに備えて、費用を少しでも安くおさえるか……。考え方はさまざまだ。

 2016年版の「オリコン日本顧客満足度ランキング」では、“御三家”といわれる「アリさんマークの引越社」「引越のサカイ」、そして2012年度から同ランキングで1位を譲らなかった「アート引越センター」を押さえ、「ハトのマークの引越センター」が首位に躍進。しかも昨年版5位からのジャンプアップである。
 トップ10に入った各社への評価を検証してみると、ユーザーたちの着眼点が「安さ」や「丁寧さ」だけでなくなっていることがわかってきた。人口減などを背景に引っ越しの市場規模が縮小を続けるなか、限られたパイを奪い合う各社に求められるのはどんな顧客サービスなのか。調査結果をもとに分析したい。

 調査対象は、全国8地域のうち3地域以上に拠点を置く24社。評価の偏りを避けるため回答者40人以上から評価を得た企業を対象とした。アンケート対象者は18歳以上の男女で、過去5年以内に引っ越し会社を利用し、業者選びに関与した1万6883人だ。

 「コストパフォーマンス」や「作業内容」「営業スタッフの接客対応」など8項目に関する質問を行い、それぞれの満足度を100点満点で評価してもらった。なお、多くのユーザーが重視する項目で評価が高い場合は、ポイントに反映する仕組みになっている(調査結果はこちら)。

 まず注目したいのは、総合満足度1位に輝いた「ハトのマーク」も、評価項目別でトップだったのは8項目中2項目にとどまり、3位「引越のサカイ」より1項目少なかったということだ。 

 引越のサカイは「現場スタッフの接客対応」「付加サービス」「作業内容」の3項目で最高点を獲得。一方、ハトのマークが最高点を得たのは「提案プラン」「営業スタッフの接客対応」の2つ。だが、そのほかの「アフターフォロー」「コストパフォーマンス」で2位になるなど、8項目すべてで4位以内をキープした。

 これに対し、引越のサカイは「コストパフォーマンス」が6位にとどまり、アリさんマークも会社の信頼性(7位)、アート引越センターは提案プラン(8位)で大きく後塵を拝した。他社と比べバランスよく高評価を得たことが、ハトのマークの勝因といえる。

 さらに分析を進めよう。8つの評価項目のうちユーザーの重視度がとりわけ高いのは、コストパフォーマンス(17.82ポイント)と、提案プラン(19.90ポイント)だ。比率は多少上下しても、この傾向は過去5年間変わらない。その重要2項目で、ハトのマークは手堅く2位と1位を占めた。
 提案プランは、重視度が年を追うごとに高まり、昨年からは「価格」より重い評価項目となっている。理由について「スマートフォンの普及などに伴い、『一括見積もりサイト』の利用が主流になったから」というのが、引っ越し業者側の見方だ。

 ネット見積もりは、大した手間を掛けずに多くの業者の概算料金を比べられるのがユーザー側の利点。けれども業者にしてみれば、電話見積もりなどと異なり、サービスの説明といったアピールトークができない。いわば提示価格だけの「一発勝負」。それだけに、業者側もいきなり高い費用は提示せず、どうしても実際より安めの見積もりが出がちだ。

 そこでいざ、業者を絞って訪問見積もりを依頼し、詳細な費用をはじいてもらったところ、金額が跳ね上がってしまう……。こうなればユーザーの落胆は大きいだろう。もし想定予算をオーバーしていれば、検討がふり出しに戻りかねない。

 ただでさえ面倒な引っ越しをスムーズに進めたいユーザーの意に沿うならば、ネット見積もりと訪問見積もりの金額を大きく乖離させないことが、イマドキの引っ越し業者にとって必須といえそうだ。実際、こうしたネット見積もりがはらむ課題を重く見た全日本トラック協会は、ユーザーの安心につなげるための「引越事業者優良認定制度(引越安心マーク)」を昨年創設している。

 ハトのマークに話を戻そう、同社は40年以上前の創立当初から独自資格の「管理士制度」を設けている。「料金の見積もりやサービスを均一化することが、他社以上に重要な課題」(今井修専務理事)であるからだ。 

 どういうことか。ハトのマークの正式名称は「全国引越専門協同組合連合会」。同社は、まだ全国で引っ越しサービスを手がける運送業者が日本通運くらいしか存在しなかった1974年に創立した最古参だ。アートコーポレーションなど同業大手と大きく異なるのは、地場の中小運送会社約150社が18の協同組合を作り、同一ブランドでサービスを提供している連合体であるという点。それだけに「一定レベルの従業員教育や、サービス品質を確保することに長年腐心してきた」(同)という。

 今回のランキングでハトのマークは、4種類取り揃えた「単身プラン」の豊富さも高い総合評価へとつながったが、今井専務は「他社との得点差は小さい。今後も愚直な努力を続けるのみ」と、気を緩めていない。
 引っ越しの市場規模は年間4500〜5000億円とされる。ネット通販の追い風を受けて2兆円規模に膨らんだ宅配便市場の、4分の1程度にすぎない。短期的には、来年4月予定の消費増税を前に、住宅購入の駆け込み需要に伴う引っ越しの増加も予想される。が、長期的に見れば、高齢化や人口減でマーケットの縮小は続くだろう。

 業界では勝ち残りをかけ、ファミリー層などの引っ越しと比べ、効率性が高い単身者などの小口需要や企業などの法人需要の取り込みへとシフトする大手の動きも目立ち始めている。

 そうした各社ごとの営業戦略と、自分自身の引っ越しニーズは、はたして合致しているだろうか。納得できる引っ越しをしたいなら、会社の知名度だけに頼らないユーザー側の眼力も問われる時代といえる。
オリコン日本顧客満足度ランキングの調査方法について

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