犬の熱中症の症状は?応急処置や治療法・予防としての暑さ対策を解説
本記事では、犬の熱中症の症状や発症しやすい環境について解説します。また、応急処置の方法や動物病院での治療、日常生活でできる予防策についても紹介します。
愛犬が暑さの影響を受けないようにするために、正しい知識を身につけ、万全の対策を行いましょう。

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢
日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。
目次
犬の熱中症とは
犬の熱中症は、体温調節機能がうまく働かなくなることで発症する危険な状態です。人間との大きな違いは、犬はほとんど汗をかくことができないという点にあります。
人間は全身の汗腺から汗を分泌し、その蒸発による気化熱で体温を下げます。
しかし犬の場合、足の裏や鼻の頭など一部にしか汗腺がなく、代わりに口を開けてハァハァと呼吸する「パンティング」で体温調節を行っています。このパンティングにより、口内の唾液を蒸発させて熱を逃がしているのです。
さらに、全身が毛で覆われていることも体温上昇の一因となります。厚い被毛は断熱材のように働き、体内の熱が外に逃げにくくなります。
熱中症になると、体温上昇により血液が濃縮して血圧が低下し、最悪の場合は命を落としたり後遺症が残ったりする可能性もある深刻な症状です。
犬にとって危険な体温と環境
環境面では、犬に適した室内環境は温度25〜28℃、湿度45〜65%と言われています。これより高温多湿になると熱中症のリスクが高まるため、エアコンや扇風機を使用して適切な温度と湿度を保つことが大切です。夏場は特に注意が必要で、愛犬の体調変化に敏感になることが大事です。
発症しやすい時期と時間帯
時間帯としては、気温が最も高くなる午後1時から3時頃が特に危険です。
この時間帯は太陽の熱に加え、地面からの照り返しも強くなります。夏場のアスファルトは50〜60℃にも達することがあり、犬は人間よりも地面に近いため、その熱の影響をより強く受けます。散歩は早朝や日没後の涼しい時間帯に行うことをおすすめします。
犬の熱中症の初期症状と危険な症状
以下に熱中症の症状を段階別にまとめました。
症状 | 具体的な内容 |
パンティングの変化 | 通常より速く激しいパンティング(ハァハァという口呼吸) |
体温の上昇 | 体を触ると熱い、40℃を超える体温 |
行動の変化 | 落ち着きがない、水を飲まない、食べない、フラフラする |
体の状態の変化 | よだれが多い、舌や口腔内が赤くなる |
症状 | 具体的な内容 |
呼吸の異常 | 呼吸が荒い、努力性呼吸、呼吸数の減少 |
体温の異常 | 41℃以上の高体温、または重症化によるショック状態での平熱以下の低体温 |
重篤な症状 | 立てない、意識がない・朦朧、筋肉の痙攣や震え |
粘膜の色の変化(チアノーゼ) | 舌や粘膜が青紫になる |
犬の熱中症の主な原因
また、過度な運動も体温上昇を招き、熱中症のリスクを高めます。犬は人間と違って汗をほとんどかけないため、運動後に体温を下げるのが難しいのです。
暑い時間帯の散歩も要注意です。特に地面との距離が近い犬は、アスファルトからの輻射熱を強く受けます。
さらに、犬種や体型などの特性も熱中症に関係します。短頭種や寒冷地原産の犬種、肥満の犬は特に注意が必要です。これらの原因を理解し、適切な環境管理をすることが愛犬を熱中症から守る第一歩となるでしょう。
屋外での危険な状況
真夏のアスファルトは50〜60℃にも達するため、犬の足の裏が火傷するリスクもあります。安全に散歩させるには早朝や日没後の涼しい時間帯に限定しましょう。
短時間だとしても窓を開けておくくらいでは不十分で、夏場の車内温度は驚くほど上昇します。JAFの実験では、黒い車の場合は最高57℃、窓を3cm開けた車でも45℃まで上昇したという結果があります。
犬は激しい運動の後、体温が上がったままになりがちです。特に外で興奮して遊んだ後は、すぐに涼しい場所で休ませ、水分補給をさせることが大切です。
室内でも注意が必要な状況
特に夏場にエアコンを使用せず閉め切った部屋は、室外よりも温度が上昇することがあります。留守番の際にエアコンをつけずに出かけてしまうと、戻ったときには室内が危険な温度になっている可能性があるのです。
犬に適した室内環境の温度25〜28℃、湿度45〜65%を超える環境では熱中症のリスクが高まります。
カーテンやブラインドで日光を遮り、犬が日陰で過ごせるようにしましょう。特に留守番中は、日光の移動で思わぬ場所が日なたになることもあるため、十分な日陰スペースを確保することが重要です。
特に熱中症の注意が必要な犬
それぞれの特性を理解し、個々に合った熱中症対策を行うことが、愛犬を守るために重要です。以下では、熱に弱い犬の特徴と対策方法を解説します。
子犬・シニア犬
シニア犬は体力の低下により、熱によるストレスへの抵抗力が弱まっていることを念頭に置く必要があります。
注意深く観察すべきポイントとして、普段より早い呼吸や元気のなさ、水分摂取量の変化などがあります。
持病のある犬
呼吸器疾患を持つ犬は、パンティングによる体温調節が効率的に行えないため、熱がこもりやすくなります。
腎臓病の犬は体内の水分バランスを保つ機能が低下しており、脱水症状を起こしやすいという問題があります。
短頭犬種
短い鼻と狭い気道により、呼吸効率が悪く、パンティングによる体温調節がうまくできないのです。また短い気道では、吸い込んだ空気が十分に冷却されないまま体内に入るため、体温を下げる効果が低くなります。
散歩は涼しい時間帯に短時間で行い、少しでも異常があれば即座に涼しい場所に移動させましょう。クールマットの活用も効果的な対策の一つとなります。
北欧犬種
特にダブルコートと呼ばれる二重構造の被毛を持つ犬種は、アンダーコートが熱を閉じ込める効果があるため、日本の暑く湿度の高い夏には不向きです。
ただし、被毛は紫外線から皮膚を守る役割もあるため、極端な刈り込みは避け、専門家に相談することをおすすめします。
被毛が黒い犬
この問題に対処するには、暑い日の散歩は避け、日陰を利用することが大切です。また、水で濡らしたクールベストを着用させることで体を冷やす効果のある服を活用するのも良い方法です。
散歩の際は地面からの照り返しにも注意し、芝生や土の上など、アスファルトよりも涼しい場所を選ぶことも有効です。
肥満の犬
さらに肥満犬は一般的に運動能力が低下しており、少しの運動でも疲れやすく、体温が上昇しやすい傾向にあります。このため熱中症のリスクが高まるだけでなく、心臓や関節への負担も大きくなります。
獣医師と相談しながら食事量の調整や適切な運動プログラムを実施し、徐々に理想体重に近づけていきましょう。また、暑い時期は短時間の散歩に留め、こまめな休憩と水分補給を心がけることも大切です。
犬の熱中症発症時の対応と治療
体温が長時間高い状態が続くと、さまざまな臓器に障害が出ます。応急処置は獣医師の治療を受けるまでの繋ぎではなく、命を守るための重要な第一歩と考えましょう。
応急処置で重要なポイント
応急処置は順番も大切です。以下の順番で速やかに処置を行いましょう。
応急処置 | 具体的に行うこと | 注意点 |
日陰への移動 | 犬を涼しい日陰や換気の良い場所、エアコンの効いた室内に移動させる | 移動させる際に無理に歩かせず、可能であれば抱きかかえる |
水や氷の使用 | 体に水をかける、または頭・首筋・脇の下・内ももなどに濡れタオルや氷のうを当てる | 氷水の使用は避け、冷やしすぎにも注意(体温が39℃程度になったら冷却を止める) |
風の活用 | 扇風機やうちわで体に風を送り、水分の蒸発を促進させる | 風だけでなく、水と併用することで冷却効果が高まる |
犬が自発的に水を飲む場合は与えても構いませんが、無理に飲ませようとするのは危険です。
また注意点にも記載していますが、体を冷やすための水が冷たすぎると末梢血管が収縮して内部の熱を逃がしにくくなってしまうため、氷水の使用は避けましょう。
動物病院での治療方法
また熱中症による臓器への影響を調べるため、血液検査なども実施されることが一般的です。
入院の判断は症状の重症度によります。軽度の場合は処置後に帰宅できることもありますが、嘔吐や下痢、呼吸困難、意識障害などがある場合は入院治療が必要になるでしょう。経過観察のための入院も多いです。
治療費は状態によって大きく異なりますが、外来診療であれば検査費用や治療費を含めて2〜3万円程度、入院治療が必要になると1日あたり5千円〜1万円が追加で必要になることが多いようです。複数日の入院や集中治療が必要な場合は、10万円以上かかるケースもあります。
愛犬の命を守る熱中症の予防法
特に犬は自分で環境を選べないため、飼い主が常に気を配る必要があります。快適な室内環境を作り、暑い時期の散歩には十分な配慮をしましょう。
水分をいつでも摂取できる環境を整えることも大切です。熱中症は一度発症すると命にかかわる深刻な状態になりうるため、「予防」が最も重要な対策となります。
室内での快適な環境作り
快適な環境作りには、温度・湿度の管理が不可欠です。犬に適した室内環境は温度25〜28℃、湿度45〜65%が理想的です。エアコンを使用する際は、設定温度を低くしすぎないよう注意しましょう。冷気は下に溜まるため、犬の体高では人間が感じるよりも寒く感じる可能性があります。
換気も重要なポイントです。窓を開けるか換気扇を回して、新鮮な空気を取り入れましょう。ただし、窓からの直射日光に注意し、カーテンやブラインドで遮ることも必要です。
エアコンのタイマー機能を活用し、常に水を飲めるよう複数の場所に水を用意しておきましょう。
また、大理石やアルミマットなどのひんやりグッズを置くことで、犬が自分で涼を取る助けになります。
散歩時における暑さ対策
特に真夏の日中、午前10時から午後4時頃までは、気温が高くなる上に地面の温度も上昇しているため避けるべきです。
地面の温度は、自分の手の甲で5秒ほど触れてみて確認できます。熱いと感じる場合は、犬の肉球も火傷する恐れがあるので散歩は控えましょう。特に舗装路面は50〜60℃にも達することがあります。
熱中症予防グッズも効果的です。
保冷剤を入れられるバンダナや冷感素材のベスト、足の裏を保護するブーツなどを活用しましょう。また、散歩中は必ず水を持参し、こまめに水分補給をさせることが大切です。
犬種や体調によっては、真夏の散歩を室内での遊びに置き換えるという選択も検討してみてください。
日常的な対策で愛犬の熱中症を防ごう
治療費は症状によって異なりますが、検査費用や点滴などで数万円、入院が必要な場合は10万円以上かかることもあります。万一の事態に備えて、ペット保険への加入も検討してみるとよいでしょう。
オリコンでは毎年「ペット保険 オリコン顧客満足度ランキング」を発表しています。実際にペット保険を利用した方の声をもとにしたランキングは、ペット保険選びの参考になるはずです。愛犬を熱中症から守るためにも、適切な保険でいざという時の備えをしておきましょう。

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢
日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
・獣医がん学会
・日本エキゾチックペット学会
・鳥類臨床研究会(鳥類臨床研究会認定医)
・爬虫類・両生類の臨床と病理のための研究会
●まさの森・動物病院(外部リンク)
※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。