犬の甲状腺機能低下症とは?症状や原因・治療法・検査方法を解説

犬の甲状腺機能低下症とは?症状や原因・治療法・検査方法を解説

犬の甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が低下することで引き起こされる病気です。この病気は、愛犬の健康にさまざまな影響を与える可能性があり、早期発見と適切な治療が重要です。

本記事では、犬の甲状腺機能低下症について、原因や症状検査方法治療法などをわかりやすく解説します。また、この病気にかかりやすい犬の特徴や、注意すべき食べ物についても触れています。

愛犬の健康を守るための知識を深め、長く元気に暮らすための参考にしてください。
まさの森・動物病院 院長 安田賢

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢

日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。

※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。

mokuji目次

  1. 犬の甲状腺機能低下症とは
  2. 犬の甲状腺機能低下症の原因
    1. 甲状腺自体に問題がある場合
    2. 甲状腺腫瘍の場合
    3. 甲状腺ホルモンの分泌を制御する器官に問題がある場合
    4. 他の病気による二次的な影響に注意
  3. 犬の甲状腺機能低下症の症状
  4. 甲状腺機能低下症にかかりやすい犬
  5. 犬の甲状腺機能低下症の検査方法
  6. 犬の甲状腺機能低下症の治療法
  7. 甲状腺機能低下症の犬が食べてはいけないもの
    1. 高脂肪食品
    2. 変性タンパク質を含む食品
    3. 甲状腺機能に影響を与える食品
  8. 病気を正しく理解して愛犬と長く健康に暮らそう

犬の甲状腺機能低下症とは

犬の甲状腺機能低下症とは

甲状腺機能低下症は、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの量が減少することで起こる内分泌疾患です。主に中高齢の犬に発症しやすく、基礎代謝の低下をはじめとする全身的な症状を引き起こします。

甲状腺は、首の中ほどにある気管の左右に1つずつ存在する小さな臓器です。

この臓器から分泌される甲状腺ホルモンは、体温維持、エネルギー産生、タンパク質や酵素の合成、炭水化物や脂質の代謝など、生命維持に重要な役割を担っています。

甲状腺ホルモンが不足すると、全身の細胞の代謝活性が低下し、さまざまな健康上の問題が引き起こされます。放置すると症状は徐々に進行し、体の代謝機能が著しく低下することで重篤な状態に陥る可能性があります。

特に、寒い日は体温が維持できずショック状態になるリスクが高まります。また、皮膚の感染症神経症状心臓への負担など、複数の合併症を引き起こす可能性もあります。
一度発症すると完治は難しいものの、適切な治療とケアを続けることで、健康な状態を維持することができます。

定期的な健康診断で早期発見し、獣医師の指導のもと治療を開始することが、愛犬の健康と長寿のために重要です。

犬の甲状腺機能低下症の原因

犬の甲状腺機能低下症の原因

犬の甲状腺機能低下症の発症原因は、大きく分けて3つあります。

甲状腺自体に問題がある場合

最も多いのは甲状腺自体に問題がある場合で、主にリンパ球性甲状腺炎特発性甲状腺萎縮が原因となります。

リンパ球性甲状腺炎は自己免疫疾患の一種で、犬の免疫系が誤って自身の甲状腺組織を攻撃してしまう病気です。その結果、徐々に甲状腺の機能が失われていきます。

一方、特発性甲状腺萎縮は原因が明らかでないまま甲状腺が小さくなってしまう状態を指します。

甲状腺腫瘍の場合

次に、甲状腺の腫瘍によって甲状腺組織が破壊され、機能が低下する場合です。

この場合は、腫瘍の状態や転移の有無によって、外科手術や放射線療法、化学療法といった治療法が検討されます。

甲状腺ホルモンの分泌を制御する器官に問題がある場合

まれなケースとして、脳下垂体や視床下部といった、甲状腺ホルモンの分泌を制御する器官に問題がある場合があります。

これらの器官に腫瘍などが発生すると、甲状腺への刺激が不足し、結果として甲状腺ホルモンの分泌が低下します。

他の病気による二次的な影響に注意

また、重要な注意点として、他の重症な病気による二次的な影響で、一時的に甲状腺ホルモン値が低下することがあります。

これは「ユーサイロイドシック症候群」と呼ばれ、真の甲状腺機能低下症との区別が必要です。長期的なステロイド投与によっても、同様の状態が引き起こされる可能性があります。

犬の甲状腺機能低下症の症状

犬の甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下症で見られる症状には、次のようなものがあります。
甲状腺機能低下症で見られる症状

カテゴリー

主な症状

全身症状

元気消失、体重増加、疲れやすさ、冷えやすさ

皮膚症状

脱毛、乾燥、色素沈着、膿皮症

神経症状

反応鈍化、歩行異常、前庭障害、顔面神経麻痺

特徴的な症状として、まず全身症状では、食事量は変わらないのに体重が増加する傾向が見られます。また疲れやすくなり、運動を嫌がるようになります。寒さに弱くなるため、暖かい場所で休むことが多くなるのも特徴です。

皮膚の変化も重要なサインです。体の左右対称に毛が薄くなったり、特に尾の部分の毛が抜けて「ネズミの尾」のような状態になったりすることがあります。また、皮膚が厚くなってむくみ、シワができやすくなります。顔周りの皮膚がむくむことで、特徴的な「悲しそうな表情」になることも。さらに、膿皮症にかかりやすくなり、通常の治療では改善しにくい傾向があります。

神経系の症状としては、時に頭を傾けたままになる、同じ場所をぐるぐると回る、足を引きずって歩くなどの前庭障害や、まばたきができない、唇が垂れ下がるといった顔面神経麻痺の症状が現れることがあります。また、けいれん発作を起こすケースもあります。
そのほかにも、徐脈や不整脈といった循環器の異常や、便秘、頻尿などの症状が見られることがあります。

また未避妊・未去勢の場合は、生殖器機能に影響が出て不妊無発情となる可能性があります。さらに、最も重篤な場合、粘液水腫性昏睡という危険な状態に陥ることもあります。

甲状腺機能低下症にかかりやすい犬

甲状腺機能低下症にかかりやすい犬

甲状腺機能低下症は、中型犬から大型犬に多く見られる傾向があります。特に、コッカースパニエル、ゴールデンレトリバー、ボクサーなどの純血種で発症率が高いことが報告されています。

日本での飼育頭数を考慮すると、トイプードルや柴犬といった日本で人気の犬種でも発症が確認されています。ミニチュアシュナウザー、ビーグル、シェットランドシープドッグなども、この病気にかかりやすい犬種として知られています。

発症年齢については、主に5歳以上の中高齢期の犬に多く見られます。中でも、7歳以降の高齢犬での発症が特に目立ちます。ただし、発症の可能性は1歳から15歳以上まで幅広い年齢層に及びます。

また、ホルモンの病気ではありますが、性差による発症率の違いは認められていません。人の場合は女性が多いとされていますが、犬の場合はオス・メスに関係なく発症する可能性があります。

犬の甲状腺機能低下症の検査方法

犬の甲状腺機能低下症の検査方法

甲状腺機能低下症の診断では、複数の検査を組み合わせて判断を行います。一つ一つの検査には意味があり、それぞれの結果を総合的に評価することで、より正確な診断が可能になります。
最も基本となるのは血液検査で、主に3種類のホルモン値を調べます。

T4」という甲状腺ホルモンと、その遊離体である「fT4」、さらに甲状腺を刺激するホルモン「TSH」の値を測定します。これらの検査結果から、甲状腺の機能状態を評価していきます。
同時に行われる一般的な血液検査も、重要な情報源となります。

甲状腺機能低下症の場合、軽い貧血が見られたり、コレステロール値中性脂肪値が高くなったりすることが多いためです。それらの値が高いと脂質代謝に異常をきたすため、高脂肪の食事は避けた方がよいでしょう。
超音波検査では、首の部分にある甲状腺の大きさや形を直接確認します。

ただし、犬の大きさによって正常な甲状腺の大きさも異なるため、それぞれの体格に合わせた判断基準が必要になります。
甲状腺ホルモンの値さまざまな要因で変動することにも注意が必要です。他の病気や薬の影響でも数値が変化することがあるため、一つの検査結果だけで判断することはできません。

そのため、日頃の様子や体調の変化など、飼い主からの情報も診断の重要な要素となります。

治療を始めると甲状腺の状態が分かりにくくなるため、治療開始前の診断が特に重要です。愛犬の異変に気付いたときは、できるだけ早く動物病院を受診し、詳しい検査を受けるようにしましょう。

犬の甲状腺機能低下症の治療法

犬の甲状腺機能低下症の治療法

甲状腺機能低下症の治療は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補充することが基本となります。主にレボチロキシンナトリウム製剤という薬を使用し、体内の甲状腺ホルモン量を正常に保つことで症状の改善を図ります。

投薬を開始すると、活動性の低下や高脂血症などは1〜2週間程度で改善の傾向が見られることが多いです。

一方で、皮膚症状や神経症状の改善には数週間から数か月かかることがあります。飼い主は焦らず、継続的な投薬を心がけましょう。

投薬量は愛犬の症状や状態によって異なるため、定期的な血液検査で甲状腺ホルモン値をチェックしながら適切な量を調整していきます。

投薬量が多すぎると頻脈や興奮といった甲状腺中毒の症状が出ることがあるため、獣医師の指示に従った投薬が重要です。

また、甲状腺腫瘍が原因の場合は、腫瘍の状態や転移の有無などを考慮して、外科手術による摘出や放射線療法化学療法などを行うこともあります。
治療費は、血液検査で15,000円〜20,000円程度月々の投薬費用は、犬の大きさや必要な薬の量によっても異なりますが、5,000円〜15,000円程度かかることが一般的です。


残念ながら一度低下した甲状腺の機能を回復させることは難しく、多くの場合は生涯にわたる投薬が必要となります。

しかし、適切な投薬を継続することで、愛犬は健康な犬と変わらない生活を送ることができます。症状の改善とともに、活発で若々しい表情を取り戻す愛犬の姿を見ることができるでしょう。

甲状腺機能低下症の犬が食べてはいけないもの

甲状腺機能低下症の犬が食べてはいけないもの

甲状腺機能低下症の犬は、脂質やタンパク質の代謝に異常をきたしているため、与える食事には特別な配慮が必要です。特に避けるべき食品制限すべき食材を理解することは、愛犬の健康管理において重要な要素となります。

甲状腺機能低下症の犬の食事管理において、特に気をつけたい食品は以下の3つに分類されます。

●高脂肪食品
●変性タンパク質を含む食品
●甲状腺機能に影響を与える食品

これらの食品を適切にコントロールすることで、甲状腺機能低下症の症状改善をサポートし、より健康的な生活を送ることができるでしょう。

高脂肪食品

脂肪分の多い肉類や保存期間の長い食品は、甲状腺機能低下症の犬にとって望ましくありません。特に何度も加熱処理された肉類や、長時間酸素に触れることで酸化した脂肪を含む食品は避ける必要があります。

甲状腺機能低下症の犬は脂肪代謝に問題を抱えており、コレステロール値や中性脂肪値が上昇しやすい状態にあります。高脂肪食品を摂取することで、さらに高脂血症のリスクが高まり、膵炎などの健康問題を引き起こす可能性があります。

代わりに新鮮な低脂肪の肉類を適度な加熱で調理して与えることをお勧めします。

例えば、鶏ささみ胸肉脂肪の少ない魚肉などが適しています。これらの食材は良質な脂肪を含みながらも、過度な脂肪摂取を抑えることができます。

変性タンパク質を含む食品

過度な加熱処理や調理により変性したタンパク質を含む食品は、甲状腺機能低下症の犬には適していませ。長時間の加熱や強い加熱処理を受けた肉類、魚類がこれに該当します。

変性したタンパク質は消化が困難になり、栄養価も大きく低下します。甲状腺機能低下症の犬はタンパク質の代謝にも問題を抱えているため、消化負担の大きい変性タンパク質は体調を悪化させる原因となります。

新鮮な肉や魚を適度に茹でる程度の調理にとどめることで、タンパク質の変性を最小限に抑えることができます。これにより、消化しやすく、栄養価の高い状態で愛犬に与えることが可能です。

甲状腺機能に影響を与える食品

キャベツやブロッコリーなどのアブラナ科野菜大豆製品海藻類レバーには、甲状腺機能に影響を与える成分が含まれています。これらの食品には、甲状腺ホルモンの分泌を阻害する物質が含まれているため、多量に与えることは避けるべきです。

ただし、これらの食品も極端に摂取しない限り、甲状腺機能に大きな影響を与えることは少ないとされています。少量であれば与えても問題ありませんが、日常的に多く与えることは控えめにしましょう。

代わりにイモ類低脂肪の肉類など、甲状腺機能に影響を与えにくい食材を中心とした食事を心がけることが望ましいでしょう。

病気を正しく理解して愛犬と長く健康に暮らそう

甲状腺機能低下症は、早期発見と適切な治療によって、愛犬の生活の質を維持できる病気です。

症状に気付いたら早めに動物病院で診察を受け、獣医師と相談しながら治療方針を決めていきましょう。継続的な投薬や定期的な血液検査、食事管理など、生涯にわたるケアは必要ですが、正しい知識を持って向き合うことで、愛犬と長く健康に暮らすことが可能です。

なお、甲状腺機能低下症の治療には、定期的な血液検査や継続的な投薬が必要となるため、診療費用の負担が気になる方も多いでしょう。そのような場合は、ペット保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

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まさの森・動物病院 院長 安田賢

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢

日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
・獣医がん学会
・日本エキゾチックペット学会
・鳥類臨床研究会(鳥類臨床研究会認定医)
・爬虫類・両生類の臨床と病理のための研究会
 ●まさの森・動物病院(外部リンク)

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