猫の膵炎の原因は?症状や治療法も解説

猫の膵炎の原因は?症状や治療法も解説

猫の膵炎は、膵臓に炎症が起こる病気で、中高齢の猫に特に多く見られます。症状は嘔吐や食欲不振、元気の低下などが一般的で、進行すると合併症を引き起こす可能性もあります。

本記事では、猫の膵炎の原因や診断方法治療法について詳しく解説します。また、膵炎に適したフードの選び方や予防方法もご紹介します。日頃から愛猫の健康を観察し、適切なケアで膵炎を防ぎましょう。愛猫との生活をより健やかで幸せなものにするために、ぜひお役立てください。
まさの森・動物病院 院長 安田賢

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢

日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。

※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。

mokuji目次

  1. 猫の膵臓のはたらき
  2. 猫の膵炎とは?
    1. 中高齢の猫がかかりやすい
    2. 「急性膵炎」と「慢性膵炎」がある
    3. 合併症に注意する必要がある
  3. 猫の膵炎の診断方法
  4. 猫の膵炎の主な治療法
    1. 原疾患を治療する
    2. 薬による吐き気や嘔吐の管理
    3. 輸液療法を行う
    4. 食欲を増進させる
    5. 疼痛の管理
    6. 再生医療
  5. 猫の膵炎は治る?
  6. 猫が膵炎になったときのおすすめフード
    1. ドライフード
    2. ウェットフード
    3. サプリメント
    4. 手作りフード
    5. 猫がフードを食べないときは?
  7. 猫の膵炎の予防方法
    1. 普段から猫の様子をよく観察する
    2. 定期的な健康診断とワクチン接種
    3. 適切な食事管理と運動
  8. 猫の膵炎は日頃の観察と定期的な検診が大事

猫の膵臓のはたらき

ネコの膵臓のはたらき

膵臓は胃と十二指腸の間に位置する重要な臓器で、膵体、膵右葉、膵左葉の3つの部位で構成されています。この臓器には大きく分けて2つの重要な役割があります。

1つ目は外分泌機能として、膵液という消化液を消化管内に分泌することです。膵液にはさまざまな分解酵素が含まれており、これらが糖質やタンパク質、脂肪を分解して消化しやすい形に変えます。また、膵液に含まれる成分には胃から流れてきた酸性の胃液を中和する働きもあります。

2つ目は内分泌機能として、インスリンなどのホルモンを分泌することです。これらのホルモンは血糖値の調節に関与しています。

このように膵臓は、食べ物の消化と体内の血糖値の維持という生命活動に欠かせない2つの重要な機能を担っているのです。

猫の膵炎とは?

ネコの膵炎とは?

膵炎膵臓に炎症が起こる病気で、猫では以前考えられていたよりも多く発症することがわかってきました。特に中高齢の猫に多く見られ、さまざまな合併症を引き起こす可能性がある重要な疾患です。

中高齢の猫がかかりやすい

膵炎膵臓内で消化酵素が活性化し、膵臓自体を消化してしまうことで炎症が起こる病気です。

かつては稀な病気とされていましたが、近年の研究では死亡後の解剖調査で60%の猫に慢性膵炎の痕跡が見られたという報告もあります。

このことから、実際には多くの猫が罹患している病気であり、特に中高齢の猫で発症しやすいことがわかっています。現時点では、特定の品種でかかりやすいといった傾向は報告されておらず、すべての猫種で発症する可能性があります。

また、膵臓は肝臓や胆嚢、胃や十二指腸といった臓器と隣接しているため、これらの臓器にも炎症が波及しやすい特徴があります。

「急性膵炎」と「慢性膵炎」がある

膵炎は突然炎症を引き起こす「急性膵炎」と、長期間炎症が続く「慢性膵炎」に分類されます。

急性膵炎では、嘔吐や下痢の繰り返しや急激な食欲の低下、上腹部を痛がるなどの症状が突然現れることが多いのが特徴です。ただし、食欲や元気の低下のみが見られる場合もあり、様子を見ていると症状が急激に悪化する危険性もあります。

一方、慢性膵炎は炎症の進行が遅いため、はっきりとした症状が見えにくいのが特徴です。症状があったとしてもわずかしかなく、嘔吐や下痢も、低頻度で軽度なことが多く、消化器症状がまったく見られない場合もあります。しかし、進行に伴い徐々に体重が減少し、毛艶が悪くなったり、なんとなく元気や食欲が低下したりといった変化が現れます。

合併症に注意する必要がある

膵炎の約半数で「三臓器炎」と呼ばれる合併症を発症することが報告されています。

これは膵炎に加えて、肝臓と胆嚢・胆管の炎症、腸炎の3つが同時に発症する状態を指します。そのため、膵炎が見られる場合は、他の臓器にも異常がないか注意深く診察してもらう必要があります。

また、慢性膵炎では膵臓の機能低下により、血糖値を調節するホルモン(インスリン)の分泌が阻害され、糖尿病を併発するリスクも高まります。

このように膵炎はさまざまな合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。

猫の膵炎の診断方法

猫の膵炎の診断方法

膵炎を確実に診断するには、複数の検査を組み合わせて総合的に判断する必要があります。

まず血液検査では、赤血球や白血球などの数値から、貧血や脱水、炎症の程度を調べます。さらに血糖値や肝臓・胆道系の数値から、糖尿病や胆管炎などの合併症の有無も確認します。

膵炎に特徴的な検査項目として、血清中の「猫膵リパーゼ免疫活性(fPLI)」があります。この数値が高値を示す場合、膵炎の可能性が高いと判断されます。

また、画像診断として腹部エコー検査を行い、膵臓の腫れや腫瘍の有無を詳しく調べます。

ただし、猫の膵炎は確定診断が難しい病気とされています。そのため、これらの検査結果に加えて、臨床症状や病歴なども含めて総合的に診断を行います。適切な治療のためにも、疑わしい症状があれば早めに動物病院を受診し、精密な検査を受けることが重要です。

猫の膵炎の主な治療法

猫の膵炎の主な治療法

猫の膵炎の治療は、原因となる病気の治療から、輸液療法薬物療法栄養管理まで、症状に応じてさまざまなアプローチを組み合わせて行います。

また、近年では再生医療という新しい選択肢も出てきており、獣医師と相談しながら最適な治療法を選択することが重要です。

原疾患を治療する

膵炎トキソプラズマなどの感染症、猫風邪の一種であるウイルス性鼻気管炎などのウイルス感染症が原因で発症することがあります。

このような場合、原因となっている感染症を適切に治療することが膵炎の改善につながります。また、膵炎を引き起こす可能性のある薬剤の使用は可能な限り避けることが推奨されます。

薬による吐き気や嘔吐の管理

嘔吐吐き気が見られる場合、嘔吐を抑制する制吐剤を使用することで、食道炎などを予防することができます。

また、胃腸の動きが悪くなっている場合には、消化管の運動を改善する薬も使用します。吐き気や嘔吐の適切な管理が重要です。

輸液療法を行う

輸液療法膵炎治療の最も重要な方法の一つで、脱水症状にならないよう点滴を行います。早期に輸液療法を開始することで、組織の損傷を防ぐことができます。

食欲を増進させる

急性膵炎の猫の多くは食欲不振に陥り、これが栄養失調や消化管バリア機能の低下、免疫機能の低下を引き起こす可能性があります。

軽度から中等度の膵炎では、自力で食事ができるようにするため、食欲を増進する薬が効果的です。

疼痛の管理

は痛みを表現することが少ないため、膵炎による腹痛は見過ごされがちです。しかし、適切な痛み止めを使用することで、食欲や体調が改善する場合が多く見られます。こうした疼痛の管理も膵炎の猫には非常に重要です。

主にオピオイド系と呼ばれる鎮痛薬が使用されますが、痛みが強い場合にはより強力な鎮痛効果のある痛み止めが選択されます。

再生医療

再生医療「細胞」を用いて行う新しい治療法です。

この治療では、まず獣医師が患部から組織を採取し、特殊な培養を行って必要な細胞を増やします。そして、その細胞を患部に戻すことで体が本来持っている修復機能や自己治癒力を利用して病気を治していきます。手術などと比べて体への負担が少ないのが特徴です。

膵炎に対する再生医療は現在まだ臨床研究段階ですが、将来の治療選択肢の一つとして期待されています。

猫の膵炎は治る?

猫の膵炎は治る?

膵炎の進行具合は、症状の程度や治療開始までの期間、合併症の有無などのさまざまな要因によって、大きく異なってきます。

比較的軽症の場合は、数日から数週間の入院や通院による治療で回復が見込めます。

しかし、症状が重く、三臓器炎などの合併症を併発している急性膵炎の場合、治療が遅れると多臓器不全を引き起こして治療が困難になることがあります。特に重篤な合併症がある場合や低血糖などが見られる場合は、症状が悪化する傾向にあります。

また、慢性膵炎の場合、完治は難しく、合併症の程度によっては生涯にわたる治療が必要になることもあります。慢性膵炎になると急性膵炎を再発する可能性もあるため、継続的な管理が重要です。

このように、膵炎は適切な治療を行えば回復が見込める一方で、治療の機会を逃すと命に関わる深刻な病気です。そのため、治療費の心配をせずに最適な治療を選択できるよう、ペット保険への加入を検討することをお勧めします。

猫が膵炎になったときのおすすめフード

猫が膵炎になったときのおすすめフード

膵炎の猫には、膵臓への負担を軽減し消化を助ける特別な食事が必要です。

市販のドライフードやウェットフード、サプリメント、手作りフードなどさまざまな選択肢がありますが、獣医師と相談しながら猫の状態に合った食事を選びましょう。

ドライフード

膵炎の猫には消化器系の処方食が推奨されます。ドライフードを与える際は、最初は柔らかくふやかして与えていき、3〜4日かけて必要なエネルギー量まで徐々に増やしていきます。

食事を与える回数も1日4回から始めて、状態を見ながら2〜3回に減らしていきます。中でも低脂肪のドライフードは膵臓への負担が少なく、消化しやすいため特におすすめです。

ウェットフード

ウェットフード水分が豊富で消化にも優しいため、膵炎の猫に適しています

また、フードの種類も豊富で、味や食感を変えることで食欲不振の猫でも食べやすくなります。特に回復期には、少しずつ食べられる量を増やしていけるよう、ウェットフードを活用すると良いでしょう。

サプリメント

腸内環境を整える成分を含むサプリメントは、消化を助けるために有効です。また、膵炎に伴う下痢や嘔吐がある場合にも効果が期待できます。

ただし、膵炎の原因や体調によって適切なサプリメントは異なりますので、必ず獣医師に相談してから使用するようにしましょう。

手作りフード

手作りフード食欲や消化器を助ける効果が期待できます。特に高タンパクで低脂肪の馬肉鶏のささみは、膵臓に負担をかけずに必要な栄養を補給できる食材です。

ただし、栄養バランスや衛生面には十分な注意が必要です。手作りフードを始める際は、獣医師に相談して適切なレシピと分量を確認しましょう。

猫がフードを食べないときは?

膵炎の猫が食べ物を受け付けない場合、フードを体温に近い温度まで温めることで食欲を刺激できることがあります。ただし、吐き気がある場合は匂いが吐き気を促してしまう可能性もあるので注意が必要です。また、ささみの茹で汁を加えたり細かくしたささみをフードに混ぜたりすることでも食欲を促すことができます。

しかし、これらの工夫をしても食べない場合は、動物病院を受診しましょう。状態が悪いときは無理な経口摂取を避け、適切な治療を受けることが大切です。

症状が落ち着いてきたら、徐々に普段のフードに戻していきましょう。その際も、最初はふやかしてから始め、少しずつ通常のドライフードに移行すると安心です。

猫の膵炎の予防方法

猫の膵炎の予防方法

残念ながら、猫の膵炎に対する確実な予防法は現時点では確立されていません。しかし、日頃からの適切なケアと観察によって、早期発見と対応が可能になります。

普段から猫の様子をよく観察する

まず大切なのは、普段から猫の様子をよく観察すること

食欲が少し落ちた元気がない動きが鈍いといった変化は、単なる「年齢のせい」と思い過ごさないようにしましょう。

特に中高齢の猫では、慢性膵炎の症状が老化現象と似ているため、体重の減少なども含めて小さな変化も見逃さないよう注意が必要です。

定期的な健康診断とワクチン接種

次に、定期的な健康診断の受診も重要です。

特に中高齢の猫では、なるべく月1回程度の体重測定やその他の身体検査を受けることをお勧めします。また、症状がなくても半年に1回を目安に血液検査や超音波などの画像検査を行うことで、外見からはわからない猫の体調の変化を把握することができます。

また、定期的なワクチン接種も重要です。ウイルス性鼻気管炎などの感染症が膵炎の引き金となる可能性があるため、年1回の適切なワクチン接種により、これらの感染症のリスクを低減することができます。

適切な食事管理と運動

さらに、適切な食事管理と運動を心がけ、ストレスをできるだけ与えないよう配慮することも大切です。

特に慢性膵炎は中高齢の肥満傾向にある猫に多く見られることから、若いうちから適切な食事と運動習慣を確立することが望ましいでしょう。

猫の膵炎は日頃の観察と定期的な検診が大事

近年、猫の膵炎は疾患として広く認知され、検査精度の向上により診断される機会も増えてきました。しかし、人や犬と比べると、猫の膵炎の病態には未だ不明な部分が多く、確実な診断は容易ではありません

そのため、日頃から猫の様子に変化がないか注意深く観察し、特に中高齢の猫では定期的な健康診断を受けることで、早期発見・早期治療につなげることが何より大切です。愛猫の健康を守れるのは飼い主だけです。少しでも気になる症状があれば、すぐに動物病院を受診しましょう。

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※本記事では一般的な例をもとに情報をまとめています。各社の商品やプランによっては当てはまらないケースもあります。また、情報は公開日現在のものです。各種状況や法令情報等につきましては、公的機関等で最新情報をご確認ください。
まさの森・動物病院 院長 安田賢

監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢

日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
・獣医がん学会
・日本エキゾチックペット学会
・鳥類臨床研究会(鳥類臨床研究会認定医)
・爬虫類・両生類の臨床と病理のための研究会
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