知識ゼロでもわかる【経済用語】 セブン社長交代案を「電車」に例えて紹介!

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セブン社長交代案を“電車”に例えて分かりやすく解説していく

 日々、新聞やニュースで目にする経済用語。社会人として当然知っているべきものだが、ちゃんと理解している人は意外に少ないのではないだろうか。そんな「いまさら聞けない」という経済用語を時事ネタに絡めて3つ解説する。

 今回はセブン−イレブン・ジャパンの社長交代を巡る動きから、「社長は誰が決めるのか?」について、「取締役」、「取締役会」、「CEO」の3つのキーワードを通して解説する。

■社長を決めるのは「取締役会」 セブン社長交代案を否決
 セブン&アイ・ホールディングスは4月7日午前の取締役会で、コンビニエンスストア事業を手掛ける子会社セブン−イレブン・ジャパンの井阪隆一社長を交代させる人事案を否決した。井阪氏は社長職を続ける(時事通信)。
 
 社長の人事を考えるとき、筆者の頭には童謡『電車ごっこ』が流れてくる。「♪〜運転手はきみだ 車掌はぼくだ 後の4人は電車のお客…」という歌詞の「車掌」が「社長」に聞こえることから、「運転手はきみだ 社長はぼくだ……」と人事を取り仕切っている社長の姿が目に浮かんでくるのだ。

 企業を電車と考えると、これを動かす運転手や車掌の役割を担うのが「取締役」となる。そして、「運転手はきみだ…」と、取締役のなかから社長や会長などを決めているのが「取締役会」なのだ。

 取締役会は取締役によって構成され、過半数の議決で社長や会長などを選任している。今回のセブン−イレブン・ジャパンの社長交代を提案したのは、親会社のセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)、「コンビニの生みの親」とされるカリスマ経営者だ。

 「♪〜運転手はクビだ!」と、井阪社長を退任させようとしたものの、取締役会の過半数の賛成を得られず続投が決まった。鈴木氏は混乱の責任を取って直後に「引退」を表明、カリスマ経営者の突然の退場に大きな衝撃が走った。

 企業のトップ人事を決める取締役会では、これまでも様々なドラマが繰り広げられてきた。今も語り継がれているのが1982年に百貨店の三越で起こった岡田茂社長の解任劇だ。「岡田天皇」と呼ばれるほどの絶対的な支配力を持ち、愛人への利益供与など好き放題な経営を続けていた岡田社長に対して、ほかの取締役たちが秘かに解任を画策する。

 そして、取締役会でいきなり社長の解任が提案され、岡田社長を除く取締役全員が即座に賛成する。呆然とする岡田社長が発したとされる「なぜだ!」の一言は、この年の流行語となるほど大きな話題となった。どんなカリスマ社長であっても、取締役会では1票を持つだけの存在であり、今回のセブン−イレブン・ジャパンの社長人事は、これを改めて示すものとなったのである。

■「CEO」って何?
 さて、鈴木氏の肩書きである最高経営責任者(CEO)とはどんな役職なのか。CEOは“Chief Executive Officer”の略。COO(Chief Operating Officer=最高執行責任者)やCFI(Chief Financial Officer=最高財務責任者)などと共に、アメリカの企業で広く使われている役職名で、日本の企業でも広がりを見せている。CEOはその名が示す通り経営の最高責任者、いわゆる社長と考えることができ、同じく取締役会で選任されているのだ。

 だが、CEOはもちろんのこと、社長や会長、専務といった肩書きは、いずれも法律的な裏づけを持っていない。商業登記簿の役員の欄には、「代表取締役」と「取締役」の記載があるだけで、社長や会長、CEOなどの記載は一切見られない。法律(会社法)が定めているのは、取締役と代表権を持つ代表取締役だけで、それ以外の役職は企業が独自のルールに基づいて決めているもの。社長も会長もCEOも、法律上では「自称」に過ぎないのである。
 
■社長を最終的に決めるのは「株主」
 取締役会が鈴木氏の提案を否決した背景には、株主の存在があった。実は社長の人事を最終的に決めるのは株主なのである。社長は取締役会で取締役の中から選ばれる。取締役は社長になるための「前提条件」であり、取締役でなければ取締役会に参加できず、社長にも選ばれない。

 この取締役を決めているのが株主だ。取締役は株主が会社の経営を委託した人たちで、株主総会での議決を経て選任されている。株主総会では、会社側から社長や会長を含めた取締役の選任議案が示され、株主の賛同を得ている。もし、これが否決されれば、社長は取締役という前提条件を失い、自動的に更迭されてしまうのだ。

 こうしたことから、社長人事を巡る抗争が、株主総会に持ち込まれることもある。その一例が大塚家具で起こった内部抗争だ。

 大塚家具では、創業者である大塚勝久氏とその長女である久美子氏が、社長の座を巡って激しく対立した。「♪〜運転手は私…」と、取締役会で勝久氏を更迭した久美子氏。これに対して勝久氏は、株主総会での巻き返しを図る。「♪〜運転手は俺だ…」と、久美子社長を外した取締役の選任議案を独自に株主総会に提出したのだ。一方、久美子氏も社長解任後も取締役の任にあった勝久氏を外した選任議案を提出して、株主の判断を求めた。

 もし、勝久氏が提出した取締役の選任議案が可決されれば、久美子氏は取締役から外れて社長の職を追われ、勝久氏が社長に返り咲くことが可能になる。だが、株主総会ではおよそ6割の株主が久美子社長の提出した取締役の選任議案を支持、勝久氏は取締役の地位も失い、大塚家具の経営から完全に締め出されたのだった。

 自らの社長人事を否決された鈴木氏が、その直後に引退を表明した一因がここにあるとされている。セブン&アイ・ホールディングスの創業者は伊藤雅俊名誉会長で、鈴木氏と二人三脚で事業を拡大させてきた。伊藤名誉会長は株式の10%程度を保有する大株主であり、鈴木氏の取締役の選任に大きな影響力をもっているが、今回の社長交代人事案には反対していたという。

 また、同じく大株主であるアメリカ投資ファンドのサード・ポイントも、鈴木氏に反発していた。セブン&アイ・ホールディングスの最高経営責任者として、絶大な権力を誇っていた鈴木氏だったが、その任命権を持つ株主たちの動向を察知して、最終的に自ら身を引く決断を下したとされているのである。

 圧倒的な力を持つ一人の取締役が、「♪〜運転手はぼくだ 車掌もぼくだ 後の4人は電車の車輪…」と、全ての人事を牛耳ることもある取締役会。とはいえ、取締役会でどんなに力を振るったとしても、最終的に人事を決めるのは「電車のお客」である株主だ。今回のセブン−イレブン・ジャパンの社長人事を巡る動きは、そのことを改めて教えるものとなったのである。

記事/玉手 義朗
1958年生まれ。外資系金融機関での外為ディーラーを経て、現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(集英社)、『経済入門』(ダイヤモンド社)がある。

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