iDeCoの制度改正の内容は?メリットや注意点、2025年予定の改正も解説
2024年12月にiDeCoは制度が改正されましたが、今後もさらなる拡充が予定されています。
この記事ではiDeCoの2024年12月の改正内容と今後予定されている改正、改正によるメリットや注意点について解説します。
節税効果のシミュレーションもしています。iDeCoの加入を検討している人も、加入中の人も参考にしてください。

監修者 松田聡子
企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
保有資格:日本FP協会認定CFP?・DCアドバイザー・証券外務員2種
目次
2024年12月のiDeCo改正で変わったポイント
<2024年12月のiDeCo改正 主なポイント>
■事業主証明書の廃止による手続き簡素化
■企業年金加入者のiDeCo拠出限度額の拡大
■脱退一時金の受給要件の変更
これまでも何度か制度改正が行われてきたiDeCoですが、2024年12月の改正は特に重要な変更となっています。それぞれの改正ポイントについて詳しく解説します。
参照:厚生労働省|確定給付企業年金制度の主な改正(令和6年12月1日施行)(外部リンク)
事業主証明書の廃止による手続き簡素化
改正前は、事業主証明書に勤務先の事業主から証明印を押印してもらう必要があり、この手続きが加入時の負担となっていたのです。
改正後は、企業年金プラットフォームを通じて国民年金基金連合会が企業年金の加入状況を直接確認できるようになりました。
そのため、個人口座から掛金を拠出する場合には勤務先への申請が不要です。これにより、加入希望者が自分だけで必要書類を準備できるようになり、手続きが大幅に簡素化されました。
ただし、「事業主払込」(給与天引き)を選択する場合は、引き続き事業主証明書の提出が必要です。この例外を除けば、iDeCo加入のハードルが下がり、より多くの人が老後の資産形成に取り組みやすくなりました。
以下は、一般的なiDeCo加入の手続きの流れです。
1. 運営管理機関(金融機関)の窓口やWebサイトから「加入申出書」を入手する
2. 加入申出書に必要事項を記入し、必要書類(本人確認書類、掛金引落口座の情報など)を用意のうえ金融機関に提出
3. 金融機関より国民年金基金連合会に提出、審査が行われる。審査完了後、口座開設通知、「個人型年金加入確認通知書」が届く
4. 口座開設完了、運用商品の選択などを行う
5. 掛金の拠出が始まる
企業年金加入者のiDeCo拠出限度額拡大
企業型確定拠出年金(DC)や確定給付企業年金(DB)等の制度に加入している人(公務員を含む)の拠出限度額が、月額1.2万円から2万円に引き上げられています。
また、拠出限度額の算定方式も「実態反映方式」に変わりました。
実態反映方式により、加入者がそれぞれ加入する企業年金の掛金の実態を反映した、より公平な算定が可能になりました。具体的には、5.5万円から企業年金の掛金額を差し引いた金額(上限2万円)がiDeCoの拠出限度額になります。
以下は、企業年金加入者の改正前と改正後のiDeCoの掛金上限をまとめた表です。
改正前 | 改正後(2024年12月〜) | |
企業型DCのみに加入 | 月額5.5万円−各月の企業型DCの事業主掛金額(上限月額2万円) | 月額5.5万円−(各月の企業型DCの事業主掛金額+DB等の他制度掛金相当額)(上限月額2万円) |
企業型DCと、DB等の他制度に加入 | 月額2.75万円−各月の企業型DCの事業主掛金額(上限月額1.2万円) | 同上 |
DB等の他制度のみに加入(公務員を含む) | 月額1.2万円 | 同上 |
加入者区分 | 企業年金の状況 | 改正前の拠出限度額 | 改正後の拠出限度額 |
---|---|---|---|
会社員 (第2号被保険者) |
企業年金なし | 月額2.3万円 | 月額2.3万円(変更なし) |
会社員 (第2号被保険者) |
企業型DCのみ加入 | 月額2.0万円 | 月額2.0万円【月額5.5万円−(各月の企業型DCの事業主掛金額+DB等の他制度掛金相当額)】 |
会社員 (第2号被保険者) |
企業型DCとDB等に加入 | 月額1.2万円 | 同上 |
会社員 (第2号被保険者) |
DBのみ加入 | 月額1.2万円 | 同上 |
公務員 | 公務員共済等 | 月額1.2万円 | 同上 |
脱退一時金の受給要件の変更
脱退一時金とは、特定の条件を満たした場合に限り、60歳前でもiDeCoの積立金を引き出せる制度です。
今回の改正で企業年金(DB等)に加入している人の中には、DB等の掛金相当額によってはiDeCoの掛金上限が小さくなり、最低掛金額(5,000円)を下回るケースが考えられます。
その場合はiDeCoに加入できない人となり、脱退一時金を受け取れるのです。
脱退一時金を受給するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
1. 60歳未満である
2. 企業型DC加入者でない
3. iDeCoに加入できない者である
4. 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でない
5. 通算拠出期間が5年以下、または個人別管理資産が25万円以下である
6. 障害給付金の受給権者でない
7. 最後に企業型DCまたはiDeCoの加入者資格を喪失した日から2年以内である
「DB等の他制度の加入者(企業型DC加入者以外)で、5.5万円から企業年金の掛金額を差し引いた金額がiDeCoの掛金の最低額を下回る人」
が加わりました。
脱退一時金の受給手続きをする場合、自身の運営管理機関へ連絡しましょう。
2025年に予定される制度改正の概要
これらの改正は「資産運用立国」を目指す政府の方針の一環であり、国民の資産形成を後押しする重要な施策です。
改正の実施には確定拠出年金法の改正が必要となるため、今後詳細が変更される可能性があります。
掛金上限額のさらなる引き上げ計画
加入者区分 | 現状(2024年12月時点) | 改正案(2025年税制改正大綱) |
第1号被保険者 | 月額6.8万円 | 月額7.5万円 |
第2号被保険者 | 月額2.3万円 | 月額6.2万円 |
第2号被保険者 | 月額2.0万円 | 月額6.2万円 |
第3号被保険者 | 月額2.3万円 | 月額2.3万円(変更なし) |
さらに、2024年12月に改正された企業年金加入者の上限額も、企業年金と合わせた上限が5.5万円から6.2万円に引き上げられます。それだけでなく、iDeCoの掛金額の上限2.0万円が撤廃される見込みです。
一方、専業主婦(夫)(第3号被保険者)の掛金上限額の変更は予定されていません。
掛金上限額の引き上げにより資産形成の選択肢が広がり、老後の備えの強化が期待されています。
加入可能年齢の70歳未満への拡大
これまでのiDeCoは原則として60歳未満までの加入が基本で、厚生年金加入者(会社員・公務員)や国民年金の任意加入被保険者のみが65歳未満まで加入できました。
2025年度税制改正大綱では、60歳以上70歳未満で、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していない人のiDeCoの加入・掛金拠出ができるようになるのです。
この改正は、高年齢者の就業確保措置の企業の努力義務が70歳まで伸びていることを踏まえたもので、より長期間にわたって税制優遇を受けながら老後資金の積み立てができ、高齢期の就労拡大に合わせた柔軟な資産形成が可能になります。
iDeCo改正によるメリット
長期運用による資産形成の可能性
以下は、年率3%の積み立てを掛金額と積立期間を変えて試算した比較表です。
ケース | 掛金 | 運用期間 | 想定運用 利回り |
元本合計 | 運用益 | 最終資産額 |
---|---|---|---|---|---|---|
改正前制度 | 月額2.3万円 | 30年間 | 年3% | 828万円 | 512万円 | 1,340万円 |
改正後 (5年延長) |
月額2.3万円 | 35年間 | 年3% | 966万円 | 740万円 | 1,706万円 |
改正後 (掛金増額) |
月額6.2万円 | 30年間 | 年3% | 2,232万円 | 1,381万円 | 3,613万円 |
改正後 (掛金増額+5年延長) |
月額6.2万円 | 35年間 | 年3% | 2,604万円 | 1,994万円 | 4,598万円 |
さらに運用期間を35年間に延ばすと、元本は2,604万円、運用益は1,994万円となり、最終資産額は4,598万円まで増加します。ただし、これは試算なので、実際の運用は必ずしもこのようにならない点に注意してください。
自分に合った積立プランを検討する際は、金融庁の「つみたてシミュレーター」(外部リンク)を活用すると便利です。長期・積立・分散投資の効果を実感できるでしょう。
税制優遇メリットの拡大
<iDeCo改正による税制優遇>
■掛金が全額所得控除
■運用益は非課税で再投資
■受取時にも所得控除あり(公的年金等控除または退職所得控除)
改正による大きな変化は、掛金上限額の引き上げにより、所得控除の節税効果が増大する点です。
年収 | 毎月の掛金 (改正前) |
年間節税額 (改正前) |
毎月の掛金 (改正後) |
年間節税額 (改正後) |
節税額の増加分 |
---|---|---|---|---|---|
400万円 | 1.2万円 | 2.16万円 | 6.2万円 | 11.16万円 | 9.0万円 |
500万円 | 1.2万円 | 2.88万円 | 6.2万円 | 13.21万円 | 10.33万円 |
700万円 | 1.2万円 | 4.32万円 | 6.2万円 | 19.01万円 | 14.69万円 |
900万円 | 1.2万円 | 4.32万円 | 6.2万円 | 22.32万円 | 18.0万円 |
1,200万円 | 1.2万円 | 4.75万円 | 6.2万円 | 24.55万円 | 19.8万円 |
参照:iDeCo公式サイト「かんたん税制優遇シミュレーション」で試算
<試算の前提条件>
・社会保険料控除は年収の14.39%
・課税所得は「年収−給与所得控除−社会保険料控除−基礎控除」として、端数金額は処理しない
・住民税額は一律10%
iDeCo改正で考慮すべき注意点
iDeCoの退職所得控除のルールが変更
このルールは、iDeCoの一時金と会社の退職金を5年以上の間隔を空けて受け取ると、それぞれに対して別々に退職所得控除が適用される(最大限控除される)制度です。
一方で、以下の具体例にように、iDecoの一時金が支給されてから4年以内に退職金を受け取ると、iDeCoの加入期間と勤務期間で重複している期間の控除が差し引かれるため、控除額が減ってしまい、結果として税負担が増えてしまうのです。
受取例 | 退職所得控除の適用 | 税負担 |
・iDeCoを60歳で受け取る | それぞれ別々に適用される | 税負担が軽減される |
・iDeCoを60歳で受け取る | 退職所得控除が重複計算される | 税負担が増える |
つまり、60歳でiDeCoを一時金で受け取った場合、勤務先からの退職金に退職所得控除を適用させるには70歳まで待つ必要があるのです。実質的に退職金とiDeCoの一時金それぞれに退職所得控除を適用させるのは難しくなったといえるでしょう。
以下は、iDeCoの受取方法による税制上の違いをまとめた表です。
受取方法 | 適用される控除 | 税制上の特徴 | 向いている人 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
一時金方式 | 退職所得控除 | ・勤続年数に応じた控除額が適用される ・控除額 = 40万円×加入年数 ・(20年超の場合は70万円×(加入年数-20年)+800万円) |
・まとまった資金が必要な人 ・加入期間が長い人 ・第1号被保険者(自営業者など) |
・企業からの退職金と同時受取だと控除が十分に活用できない ・改正で5年ルールが10年ルールに変更 |
年金方式 | 公的年金等控除 | ・年金収入に応じた控除額が適用される ・他の公的年金と合算して課税 |
・安定した収入を得たい人 ・公的年金収入が少ない人 |
・他の年金収入と合算されることで税率が上がる可能性がある |
併用方式 | 両方の控除を適用 | ・一部を一時金、残りを年金として受け取る ・それぞれに適切な控除を適用 |
・一時金と年金両方のメリットを活かしたい人 | 一時金方式と年金方式の両方の注意点が該当する |
その他の注意点
また、iDeCoには国民年金基金連合会や金融機関への口座管理手数料や給付手数料が発生します。年金形式で受け取る場合は、毎回の受取時に手数料がかかるため、長期的なコスト計算も重要です。
さらに、掛金増額と加入期間延長により運用資産が増えるため、自分のリスク許容度や投資期間に合わせた運用商品の選択がより一層重要になってきます。
iDeCo改正を活用してより良い資産形成を始めよう
掛金上限額の引き上げや加入可能年齢の拡大は、長期的な資産形成と税制優遇のメリットを最大限の活用につながります。
しかし、改正に伴う注意点も忘れずに、自身の状況に合わせた運用戦略を立てることが重要です。iDeCoを活用し、老後の経済的安定を目指しながら、柔軟で効果的な資産形成プランを実現しましょう。
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監修者 松田 聡子
明治大学法学部卒。
金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て独立系FPとして開業。
企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
■保有資格:日本FP協会認定CFP?・DCアドバイザー・証券外務員2種