【飲酒運転事故の判例】玉突き事故や歩行者との衝突…ドライバーへの判決は?
<事例 1>新人歓迎会後の経営者による玉突き事故/危険運転致傷罪・懲役2年(執行猶予4年)
【事故内容】
東京都千代田区内で、ある経営者が自社の新人歓迎会兼新年会を開催。ビールやアルコール度数の高いお酒を飲み、店を出るときには足元がおぼつかないほど酔っていた。そんな状態にもかかわらず、「せっかくだから新人社員たちを自分の車で送ってあげよう」と運転したところ、対向車線にはみ出して自転車と衝突した上、信号待ちをしていたタクシーに追突。タクシーはさらにその前にいた別のタクシーに追突するという玉突き事故を起こし、計3人を負傷させてしまった。
【判決】
加害者は被害者に一定の誠意を示して許しを得ていることや、任意保険等で人的・物的損害については賠償されることなどが斟酌された。それでも、危険運転致死傷罪が新設された直後ということもあり、「飲酒運転の危険性に頓着しない甚だ安易な考え」(判決文)と、懲役2年(執行猶予4年)という判決が下された。
事故が発生したのは、電車もまだ走っている時間。現場付近には駅もあったため、新人社員を車で送っていく必要はなかったといえます。「送ってあげる」と言われて断りきれず、「危ないな……」と思いつつ車に乗ってしまった新人社員もいたかもしれません。一歩間違えば彼らの命まで奪いかねない危険な行為でした。
<事例 2>居酒屋で飲酒後、電柱に激突して車両が大破/業務上過失致死罪・懲役4年
【事故内容】
発生前日の午後11時30分頃から翌20日の午前1時頃まで、愛媛県今治市の居酒屋で知人男性と2人で飲酒していた男性が、車でやってきた女性と合流してカラオケ店へ移動。午前6時頃に帰宅しようとした際、タクシーがつかまらず、男性が車を運転。原付バイクを追い越した後、スピードを出し過ぎていたため緩やかな右カーブを曲がりきれず道路を飛び出し、前方の電柱に激突。車両は大破し同乗の男女2人を死亡させた。
【判決】
裁判では危険運転致死罪が成立するかどうか争われたが、「進行を制御することが困難な高速度」で走行していたとまではいえず、路外逸脱の原因が高速走行によるとはいいきれないと結論付けられた。さらに、「被害男性の遺族から寛大な処分を願う旨の嘆願書を得ていること」などが斟酌され、業務上過失致死罪の適用となり、懲役4年という判決が下された。
斟酌事由のなかには、「被害者らに対し、車両に付された保険により、一定額の保険金が支払われていること」という点も含まれていたことがわかっています。
<事例 3>職場の忘年会で飲酒し、歩行者5人を跳ね飛ばした/危険運転致死罪・懲役15年
【事故内容】
発生日前日の8日に、千葉県松戸市で行われた職場の忘年会で幹事を務めた男性が、一人では立って歩けないほど泥酔。二次会後に職場の事務室で仮眠をとった後も目の前がぼやけていて、酔いが回っていることを自覚していた。また、タクシーで1000円程度の距離に自宅があるにもかかわらず、「翌朝の通勤時に車がないと不便」という理由で運転。すぐに居眠りし、時速50〜55キロで道路を走行中に左側の路側帯にはみ出し、歩行者5人を跳ね飛ばして死亡させた。
【判決】
このドライバーには常習的に飲酒運転をしていた形跡があり、過去に酒酔い運転で摘発され、免許取消や免許停止の処分を受けたことがあった。そうした交通規範意識の低さを徹底して矯正させるだけでなく、「被害者の冥福を祈る贖罪の日々を最大限長期にわたって送らせるのが相当である」(判決文)として、危険運転致死罪の最高刑にあたる懲役15年の判決が言い渡された。
車は男性の勤務先のもので、任意保険に加入していたため、一定の補償が見込まれることが考慮されました。ただし、判決文では「コントロールを失い、通行人を無差別に害した本件車両は、まさに走る凶器と化したもの」とまで形容されています。
<事例 4>6時間半飲酒し、歩道に突っ込み高校生が犠牲に/危険運転致死傷罪・懲役20年
【事故内容】
発生前日の午後9時頃から6時間半にわたり、宮城県多賀城市で飲食店をはしごしながら生ビールや焼酎の水割りなどを飲んでいた男性が、帰宅するため大型のRV車を運転。しかし、飲酒や夜更かしによる眠気により、急減速や急加速、蛇行、信号無視などを繰り返して居眠り状態に陥り、赤信号の交差点に時速約60キロで進入。横断歩道の手前で停まっていた乗用車に衝突して、もろとも歩道に突っ込み、学校行事で道路を横断していた高校生3人が死亡、15人が重軽傷を負う惨事となった。
【判決】
<事例3>と同様、この男性も以前、飲酒後に居眠り運転をして事故を起こしたことがあった。裁判では、弁護側が「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態にはなく、その認識もなかった」と主張し、危険運転致死傷罪の成立を争ったが、退けられて懲役20年という判決が下された。
この事故を起こした車両は、任意保険に入っていなかったため、「十分な賠償が行われる望みもない」(判決文)とされました。強制の自賠責保険だけではなく、任意保険や関連特約など適切なものへ加入しておくことの大切さが示されているといえるでしょう。
飲酒運転などもってのほかですが、事故全般に対する備えとして、手厚い任意保険への加入しておくことはドライバーの責務といえそうです。
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