投資の“損失”は、確定申告で節税! 「損益通算」の仕組みを解説
■節税対策が重要な理由 売却益には20.315%が課税に
■損益通算とは? 確定申告で損失を報告、税金を軽減できる制度
■損益通算の対象は? 知っておきたい3つの基本ルール
所得税と損益通算の仕組み
ルール@ 譲渡益・配当金・分配金の所得項目は? 所得項目が異なっても損益通算は可能
ルールA 金融商品のなかでも、損益通算できる組み合わせがある
ルールB 配当金や分配金は、「申告分離課税」で損益通算の対象に
■【ケースで紹介】損益通算と「繰越控除」の活用例
■損益通算の方法 自分で計算が必要なケース、自動で計算されるケースとは?
「源泉徴収ありの特定口座」なら、自動的に損益通算される
自分で損益通算が必要な2つのケース
■「転んでもただでは起きぬ」 損益通算を活用して投資を楽しもう
節税対策が重要な理由 売却益には20.315%が課税に
10万円 ×20.315% =2万315円
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損益通算とは? 確定申告で損失を報告、税金を軽減できる制度
ただし、暦年(その年の1月1日から12月31日まで)の取り引きの中で、儲けが出た取り引きと損失を出した取り引きを通算することで支払う税金を少なくし、場合によっては払った税金を取り戻す(これを、還付という)ことができる。これを「損益通算」といい、損失の分だけ利益を圧縮し、税金を軽減、もしくはゼロにできる仕組みだ。
また、損益通算しても通算し切れなかった損失には、「譲渡損失繰越控除」という控除制度が適用される。これによって翌年以降3年にわたって損失を繰り越しして通算することができる。
損益通算の対象は? 知っておきたい3つの基本ルール
その前に…所得税と損益通算の仕組み
損益通算は、損益を計算して損失が生じた場合に、所得から損失(赤字)分を控除すること。控除対象となることで、課税所得が少なくなることで所得税を抑えられることとなる。
損益通算の対象となる所得は、次の4つの項目に分けられる。
A 事業所得
B 譲渡所得
C 山林所得
これらの4つの所得は、基本的には他の所得と損益通算が可能だが、いくつかの例外もある。特に、上場株式等の譲渡損失については、他の所得との通算はできないので注意が必要だ。
ルール@ 譲渡益・配当金・分配金の所得項目は? 所得項目が異なっても損益通算は可能
対象となる名目 | 所得の項目 |
上場株式等(上場株式、投資信託、ETF、REIT)の譲渡益 | 譲渡所得 |
上場株式等(上場株式、投資信託、ETF、REIT)の配当金・分配金 | 配当所得 |
公社債・公社債投信の譲渡益 | 譲渡所得 |
公社債・公社債投信の分配金 | 利子所得 |
ルールA 金融商品のなかでも、損益通算できる組み合わせがある
グループ@ 上場株式・特定公社債等
「上場株式等」 上場株式、株式投資信託、外国株式
「国債」
「外貨MMF(マネーマーケットファンド)」
「特定公社債」 など
グループA デリバティブ取引(先物取引)
「FX(外国為替証拠金取引)」
「日経225先物」など先物取引 など
グループ@「上場株式・特定公社債等」については、従来から、「上場株式」、「株式投資信託」、「外国株式」などが含まれる「上場株式等」は通算が可能だった。これらに加えて、2016年からは国内外の「国債」や「外貨MMF(マネーマーケットファンド)」などの「特定公社債等」も通算できるようになり、対象商品が大幅に増えた。
なお、「FX(外国為替証拠金取引)」や「日経225先物」といった先物取引(グループA)は「雑所得」に分類されるため、株式や投資信託等(グループ@)とあわせての損益通算できないので注意しよう。
ルールB 配当金や分配金は、「申告分離課税」で損益通算の対象に
通常、配当金や分配金、利子は「源泉分離課税」なので、受け取るときにはすでに源泉徴収で課税金の支払いが完了している。ところが、「申告分離課税」を選んで確定申告することで、上場株式等にかかる譲渡損失と損益通算が可能になるのだ。
「分離課税」とは、給与所得などのほかの所得と合計せず、分離して税額を計算する制度のこと。山林所得、土地建築や株式の譲渡所得等が対象となる。中でも、受け取り時に源泉徴収される「源泉分離課税」と、確定申告によって納税される「申告分離課税」がある。
【ケースで紹介】損益通算と「繰越控除」の活用例
まず、1年間に取り引きを行った口座が1つの場合。例えば、同一口座内でA株の譲渡益(売却益)が3万円、B株の配当金が2万円、Xファンド(投資信託)の分配金として1万円の利益を得た一方で、C株の譲渡損失(売却による赤字)が10万円だったとする。なおA・B・Cはいずれも上場株式、Xは公募株式投資信託とする。
手続きの結果、源泉徴収された9,188円の所得税が全額還付され、住民税3,000円は翌年度の住民税から控除され、控除し切れない分は還付される。なお、この際に住民税についての手続きは不要だ。
損益通算の方法 自分で計算が必要なケース、自動で計算されるケースとは?
「源泉徴収ありの特定口座」なら、自動的に損益通算される
この「源泉徴収ありの特定口座」なら、同一口座内の損益通算も自動で代行してくれる。面倒な手続きが必要なく、投資家にとって一番手軽な口座といえるだろう。また、配当金や分配金についても「源泉徴収ありの特定口座」であれば、自動で損益通算してくれる。
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自分で損益通算が必要な2つのケース
A 1つの口座でも、「源泉徴収なしの特定口座」や「一般口座」での取り引き
例えば、2つの証券会社の口座で取り引きがあり、一方の証券会社では利益が出たが、もう一方の証券会社では損失を出してしまった場合など、損益通算するためには口座の種類にかかわらず確定申告をしなければいけないということだ。配当金などから源泉徴収された税金を取り戻すこともできるので、譲渡損失が発生したら忘れずに行おう。
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「転んでもただでは起きぬ」 損益通算を活用して投資を楽しもう
この記事の監修者:市川雄一郎
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP(R)。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。1969年生まれ。グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、金融機関の職員や顧客に対する講義や講演も行う。「日本経済新聞」「日経ヴェリタス」「朝日新聞」「東洋経済」「週刊ダイヤモンド」などへの原稿執筆・コメント提供のほか、ラジオ日経などのメディア出演も多数。主な著書に『投資で利益を出している人たちが大事にしている45の教え』(日本経済新聞出版)がある。
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