株主優待とは? 基本のしくみと5つのメリット、銘柄選びのポイントまで

企業から投資家へ商品やサービス券・金券などが贈られる「株主優待」。魅力を感じる一方で、株取引の値動きによって損を出すリスクを考えると、なかなか手を出せない投資初心者も多いのではないだろうか。しかし株主優待をメインで考えるならば、少額投資から始められる銘柄も多く、また日々の株価の動きにとらわれず、優待品が届くのを待つだけでもいいので、初心者でも楽しめる。今回は、株主優待の仕組みやメリット、始めるまでの流れや、どんなリスクに注意すべきかなど、基本をまとめて紹介しよう。

株主優待とは? 企業から“お礼”として受け取る株式投資“3つ目のリターン”

株主優待とは、企業が投資家に“出資のお礼”として、自社の株を持っている個人の投資家に対して、特典や商品・サービスを提供すること。
 
そもそも株式投資をする人は、安く買った株を高く売って利益(値上がり益)を得る「リターン狙い」(キャピタルゲインという)と、企業が経営状況によって株主に支払う「配当狙い」(インカムゲインという)が一般的な戦略方法。

この2つのリターンに加えて、「株主優待」を実施する企業銘柄を持つことによって“3つ目のリターン”が期待できるのだ。

気を付けたいのは、株主優待は全ての企業が行っているわけではなく、自社の方針などに合わせて実施している。そのため、株主優待を目的に投資を始めるのであれば、株主優待付きの企業(銘柄)が対象となる。一定期間、長期で保有してくれる投資家が増えれば安定した経営にもつながるなど、実施する企業側にもメリットがある。
 
同銘柄内でも、優待の内容は株の保有数(投資金額)に応じて異なり、株式を多く持っていればいるほど充実しているケースが多い。ただし、保有数に関係なく一律で同じ優待品を提供する企業もあるほか、保有期間に応じてグレードアップするケースもある。

株主優待でもらえるものは? 「買い物券」や自社商品、「イベント招待券」……限定品まで

優待品には、どのようなものがあるのだろうか? 現在、実施している企業の株主優待からいくつか例を見てみよう。

◆優待品の例(100株の場合。最低購入金額は各銘柄で異なる)

企業名

主な優待品の一例

アサヒグループホールディングス

1,000円相当のグループ商品詰め合わせ(株主限定ビールなど)、寄付

サマンサタバサジャパンリミテッド

取り扱いブランド商品の優待特別価格販売会へ招待、割引券

タカラトミー

オリジナル「トミカ」2台セット

すかいらーくホールディングス

自社グループ2,000円食事券

日本航空

割引券(国内線50%)、旅行商品割引券(5%または7%)

※最新情報は各企業の公式サイトでご確認ください(2022年5月10日調べ)    
提供するサービスは、買い物優待券や無料券、自社製品、カタログギフトなど企業によってさまざま。自分のライフスタイルに合う“使い勝手の良い優待”がもらえる銘柄を選べば、生活がより便利になるはずだ。

また、株主だけが参加できるイベント招待券など、通常ルートでは手に入らない優待品を用意している企業もあり、これらを目的に投資を始める人も少なくない。

最近ではSDGsに対する関心の高まりを受け、株主優待として「社会福祉」「環境保全」「災害支援活動」への寄付が選択できる銘柄も増加し、ますます選択肢が多様化している。
海外企業には株主優待の文化がない?
各企業の株主優待の内容は、調べるだけでも楽しい。AppleやAmazonなどの有名な海外企業はどんな優待を実施しているのか、気になる人もいるだろう。

実は、ほとんどの海外企業が株主優待制度を実施していないのだ。海外企業では“配当”で株主に収益を還元するという意識が強いのが大きな理由とされている。

株主優待を楽しみたい人は、国内企業の銘柄を中心に探してみよう。

優待付き銘柄の5つのメリット

優待の内容自体も、魅力的な「株主優待銘柄」への投資。実はそれ以外にも、優待付き銘柄ならではのメリットがある。ここでは5つのメリットを紹介しよう。
「株主優待銘柄」投資の5つのメリット

メリット@ 少額投資で始められる
メリットA 買い時をつかみやすい
メリットB 株価の下落に強い
メリットC 忙しい人や投資初心者でも扱いやすい
メリットD 年間最大20万円までは、申告不要で受け取ることができる

メリット@ 少額投資で始められる

株というと、以前は100万円以上する高額銘柄が多く“株式取引=お金持ち”がするものというイメージが強かった。だが、現在では投資金額の小口化が進んだこともあり、今では「株主優待銘柄」は10万円以下から買えるものも多い。中には1万円ほどで株主になれる銘柄もあり、少額投資でも始められる。

株取引は100株単位だが、「株主優待銘柄」の場合、最低保有数として100株持つことで、優待を受けられる場合が多い。

購入する資金の算出方法は、「株価×株数(100株単位)=出資金」で計算する。また最新株価は、証券に口座を開きマイページを確認すれば、簡単にチェックできる。

メリットA 買い時をつかみやすい

株主優待銘柄を買って優待品をもらうためには、「権利付き最終売買日」までに購入しておく必要がある。というのも、「権利確定日」に株主名簿に名前が記載されるためには、権利付き最終売買日に株式を保有していなければならないためだ。

ただ株主優待銘柄は、「権利付き最終売買日」に近づくとジリジリ値上がりすることがよくあるので気を付けたい。

値上がりの理由は、権利付き最終売買日までに株式を保有していれば、株主名簿に名前が載るため、株主優待のみならず配当を得る権利も得られるためだ。投資家の多くはこの配当狙いの場合が多く、翌営業日の「配当権利落ち日」には配当額程度、株価が下落することが多い。

よって、株価が値上がりする前に購入する方が賢明だが、権利付き最終売買日に近づく前に購入する方が安く買えるチャンスもありそうだ。

メリットB 株価の下落に強い

株式投資を長年続ければ続けるほど、株価の暴落を経験するだろう。過去には、バブル経済の崩壊やリーマン・ショックのほか、大地震や自然災害、世界情勢などの影響を受けて、株式相場全体が不安定になり、株価大暴落が起こることもあった。

大暴落といかないまでも、もともと日々価格が変動する株では、さまざまな要因で株価が下がる。このような場合でも、権利付最終売買日が近づくと、株主優待銘柄は比較的買われやすい傾向にある。

理由は、配当や株主優待メインの個人投資家は優待品を目当てにしている人が多いから。さらに、株価が下がると「チャンス!」と買い増ししてくる個人投資家もいる。

株価の下落時は、追加購入で保有株数を増やし、優待内容をグレードアップさせるチャンスになるほか、買い増しによって、株価が少し高いときに買ってしまった銘柄の平均単価を下げるなどの調整を行うケースもあるのだ。

メリットC 忙しい人や投資初心者でも扱いやすい

投資というと、チャートを見たりしながらパソコンやスマホで値動きを常にチェックしないといけないのでは……というイメージを持っている人もいるだろう。

「株主優待銘柄」の場合、短期的な株価変動はそこまで気にしなくていいので、常時チェックする必要もない。そういった意味でも、日中仕事をしている人や株価チャートに慣れていない投資初心者にも向いているといえる。

メリットD 年間最大20万円までは申告不要で受け取ることができる

株式投資の値上がり益(“購入時よりも高く売る”ことで得られる利益)と配当(企業が株主に利益を還元する金利のようなもの)には、現在20.315%の税金(所得税と住民税)がかかる。

ところが、同じ株主配分の1つである株主優待では、金券などの場合も「雑所得扱い」になる。年末調整で課税関係が済んでいる給与所得者の場合、給与所得と退職所得以外の所得が年間最大20万円以下は、確定申告が不要となるのだ。
◆株式で得られる利益
・売却時:値上がり益 →20.315%の課税対象(※)
・保有時:配当金 →20.315%の課税対象(※)
・株主優待:最大20万円(年間)まで“雑所得”として申告不要
  ※NISA(ニーサ)制度を利用すれば年間120万円まで5年間非課税となる。つみたてNISAを利用する場合は年間40万円まで20年間非課税となる。

<参考記事>つみたてNISAのメリット・デメリット、長期投資がすすめられる理由とは?
「10万円値上がりした!」と喜んでも、実は8万円しかもらえない値上がり益に比べ、優待は20万円まで影響を受けないので、おトクといえる。特に最近は、優待利回りがはっきりと分かるクオカードや商品券などの“金券優待”を実施する企業も多い。

また、先述したように2014年から始まったNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、2018年から始まったつみたてNISAの口座で運用すれば、一定額までは売却益と配当を非課税にできるので、うまく活用するのも手だ。

購入前の注意「企業の業績チェックは必須」 判断材料は企業サイトのIRページに

魅力いっぱいの株主優待だが、気を付けたいのは「株式投資では投資資金に元本保証がない」ということ。株式を保有している会社が倒産すると、優待が受け取れなくなるのはもちろん、その株の価値自体がなくなってしまうので、業績チェックは大切だ。

指標の1つとして、“今年を含めた3年程度の決算が黒字になっている企業”を候補にする方法がある。業績が落ち込むと、株主優待制度が廃止されたり、倒産したりという最悪のケースもある。

また、一時1500社を超えていた株主優待銘柄も、業績を理由とせずに経営方針から廃止する企業も増えてきている。

投資先を決めるときは、企業のIRページで発表される過去3年間の業績についてチェックすることに加えて、株主優待制度に関する情報にも常に目を向けておくようにしたい。

財務のチェックをする上では、特に次の2つの項目が満たされていれば、業績が順調に伸びているという判断材料になる。
 @売上高からコストを引いた「営業利益」が増えて本業が儲かっている
 A1株当たりの儲けである「1株利益」が増えて業績が向上している
ほかにも業績チェックに役立つといわれている項目を下の表にまとめたので、IRページを見るときの参考にしてほしい。

◆業績チェックに役立つ項目

売上高

業務での収入すべてを合計したもの。 事業規模を表す。

経常利益

【売上高】-【売上原価】-【販管費(販売費及び一般管理費)】=営業利益に営業外損益を加減したその期の利益。

当期純利益

税引き前当期純利益から、法人税などの利益にかかる税金等を差し引いたもの。

業績予想

原則として、企業が発表している業績の予想。良い修正を発表すると株価が上がり、悪い修正には株価が下がることが多い。また、企業発表の業績予想以外に、企業分析のプロであるアナリストの業績予想平均のことをコンセンサスという。

配当

企業の利益の一部を株主に還元するもの。経営方針で変動し、株主総会で承認されて決定する。

PER
(Price Earnings Ratio)

「株価収益率」のことで、株価の割安指標に用いられる。株価を1株当たりの当期純利益(予想)で割ったもの。2022年12月の東証プライム市場平均PERは約14.4倍。

PBR
(Price Book-value Ratio)

「株価純資産倍率」のことで、株価の割安指標に用いられる。計算式は【株価÷1株当たり株主資本 (BPS)】。会社の純資産と株価の関係を表し、1倍以下は割安状態を表す。

ROE
(Return On Equity)

「自己資本利益率」のことで、企業の収益性を測る。計算式は【当期純利益÷自己資本×100%】。投資家は、ROE10%以上を投資の目安にしていることが多く、企業も経営計画で10%以上を目指しているケースが多く見られる。

保有していれば毎年の楽しみとなる株主優待。優待付き銘柄のメリットや注意点を押さえた上で、優待内容や予算など自分に合った銘柄を選択して取り引きを楽しもう。

この記事の監修者:市川雄一郎

生活者目線の自由なトークが持ち味。物腰やわらかで明快な講義は、全国に多数のファンがいる。
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP(R)。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。1969年生まれ。グロービス経営大学院修了(MBA/経営学修士)。日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教鞭を執るほか、金融機関の職員や顧客に対する講義や講演も行う。「日本経済新聞」「日経ヴェリタス」「朝日新聞」「東洋経済」「週刊ダイヤモンド」などへの原稿執筆・コメント提供のほか、ラジオ日経などのメディア出演も多数。主な著書に『投資で利益を出している人たちが大事にしている45の教え』(日本経済新聞出版)がある。
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